櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
ルミアとシェイラは大通りに出る。
様々な出店が道沿いに並び人々で賑わうその光景が鮮やかに二人の目に映る。
「わあっ!!」
「すごいな、これ...!!」
滅多に街に出ない二人は当然の様に祭りも初めての経験。
胸を高鳴らせて一歩を踏み出した。
「シェイラさん!出店って何でもあるんですね!食べ物もたくさん!」
「食べたいのある?」
「えーーどうしよっ...!!」
昼過ぎという事もあってお腹が空いていたルミは食に走る。
美味しそう!と笑みを浮かべて幸せそうに見て回るルミをシェイラは満足そうに見つめる。
「シェイラさんシェイラさん!フェルダン王国、王都名物『ルシャまん』ですって!!食べましょ!」
「っはは、うん!」
シェイラの隣で買ったルシャまんを頬張り、その美味しさにまるで子供のようにはしゃぐルミ。
その姿が可愛くってたまらないシェイラは、胸いっぱいだ...!と手にしたルシャまんを食べるでもなく、じ~んと感動に浸っていた。
それからも二人は出店を回る。
美味しそうな食べ物につられたり、綺麗な小物に惹かれたり、花や服なんかも売ってある。
何も気にせず色々な出店巡りを楽しんでいたルミとシェイラだったが、いつの間にか二人の周りには人だかりができ始めていた。
理由は明白。
ルミとシェイラの容姿である。
第二王子セレシェイラの顔は例え国民でさえ知る者は少ない。
知っている情報と言えば、国にサクラの花と平和をもたらす伝説の王子ってことぐらい。
だから国民に紛れて目立たない格好をしていれば騒ぎにはならないだろうとシェイラは踏んでいた。
だがしかし、彼のキラキラと輝く黄金の瞳は明らかな王族の証。
隣に居るルミも片方は金色だ。
おまけに目立たない格好と言えどその素質は隠せるわけもなく。
美男美女の登場に周囲はワッと湧いていたのである。
「そこの美人のお二人さん、寄ってらっしゃい!」
出店のおばさんが二人に声をかける。
商売人らしい元気な声は、相手を王族と知ってもなお怯むことなどないようだ。
おばさんがいるその店は、魔導具を売る店のようだった。
食いついたのはルミアの方。
駆け寄るルミアの後ろをシェイラはついていく。
「魔導具!出店でも売るんですね」
「ああ。と言っても高価なものは売れないからね。メインはこっちさ」
そう言っておばちゃんが指差したのは、
「魔導石の加工...?」
「そう!魔導具屋は魔導石の扱いにおいてはプロだからね。加工に慣れてないお客さんや、プロの手を借りてより微細な装飾を造りたいっていうお客さんの手伝いをするのさね。お嬢さんも魔法使いだろ、やってかないかい?」
その一言にルミアの目はキラキラと輝く。
魔導石の装飾品と言えば、魔法使いから魔法使いへ贈られる、相手を真の魔法使いと認めた証。
ルミアも造ったことはある。
シェイラの左耳に光る黒いイヤリングと、ジンノが首にかけている黒い指輪。
だが、どちらも幼い頃同時期に作ったこともあり非常に歪で不格好な仕上がりで、若干後悔していた。
だから返答は一つ
「やりますっ!!!」
ルミアのやる気に満ちた大きい声が通りに響いた。