櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
◇
「――ふう、こんなもんかな」
「なかなか上手いじゃないか!センスもいいよ」
「えへへ。お褒めに預かり光栄です」
シェイラの惨事に気づくこともなく、魔導石の加工をやっていたルミアはようやく一段落ついて肩を休めていた。
彼女の手元には陽の光を浴びてキラリと光る黒い石がいくつも出来ている。
この黒い石が魔導石。
魔法使いの魔力を極一点に集中させ練り上げていくことで作ることが出来るこの石は、その元となる魔力が強ければ強いほど色が濃くなり、最高水準の純度下では石は真っ黒になるのだ。
ルミアの作り出す石の色は黒の中の黒、光を吸収してしまう闇にすら近いのではないかと思える程の黒さを放つ。
この黒さにはおばちゃんもびっくり。
「それにしてもよほど強い魔法使いなんだねえ。こんな色の魔導石、あたしゃ初めて見たよ!」
「そうですか?へへへ」
「それにしても、お嬢さん、その大量の魔導石をどういう装飾品にするんだい?全部使ってネックレスにでもするのかい」
ルミアの手元にある魔導石は全部で十個。
大きなものから小さなものまで様々だが、一体どうするのやら。
尋ねるおばちゃんに、ルミアは「ないしょです」と、可愛らしくウインクする。
ルミアの周囲に群がっていた観客のごとき男達が胸打たれ、瞬殺されたのは言うまでもない。
.......
それから数時間後──
「で、出来たああーー!!」
ルミアはそう言って両手の拳をつきあげた。
「いやあ、頑張ったね!いっぺんに十個も装飾品を作るなんて思わなかったからずいぶんと時間がかかったよ。それに嬢さん意外と不器用なんだから」
「すいません。ホントに、おばさんの手伝いがなきゃ今日中に終わらなかったかもしれません。最後まで付き合って下さってありがとうございます!!」
「いやいや、久々に楽しかったよ!やっぱりモノづくりは最高だね!お疲れさん!」
元気なおばちゃんが、楽しそうに笑う。
それにつられるようにルミアも笑い、最後にもう一度ありがとうと言って店を出た。
帰り際、
「今度はうちの店においで、出店じゃなくてね。あたしやあたしの旦那が作った最高の魔導具、見せてやるからさ」
「!!はいっ!」
おばちゃんのありがたいお誘いに胸を踊らせ、ルミアは再び出店の立ち並ぶ通りを歩き始める。
石を加工して、おばちゃんの熟練の技術も借り、ひとつひとつ丁寧に仕上げた魔導石の装身具。
贈る相手が喜ぶ姿を想像し、ルミアはふふっと微笑んだ。
(シェイラさん、喜んでくれるかな。喜んでくれるといいな。.......ん?あれ?なにか...)
なにか、忘れている、ような...
「あ!!!」
そこで彼女はようやく気づく。
「シェイラさん!!!」
彼がいつの間にやらいなくなっていたことに。
ルミアは作った魔導石の装身具をいれた袋を抱えシェイラの魔力の香りを頼りに走り出す。
人々で賑わう大通りは、沈み始めた夕日を浴びて茜色に染まり。
空には一番星が輝き始めていた。