櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ






(どこっ、シェイラさん...!)



 ルミアは駆ける。



 集中してて気が付かないなんて!



 自分が情けない。



 大通りから外れ、細い路地を抜けて香りの後を辿る。



 辿り着いた先は出店で賑わう通りから大きく外れた、サクラの花の咲き誇る木々の中。



 二人がいつも待ち合わせしていた魔法学校の裏庭だった。






 鬼と化したジンノから逃げたシェイラは、彼らから追われ街中を走り回り、ここに逃げ込んでいたのだ。



 逃げても逃げでもジンノ側にはローグがおり、行きつく場所に先回りする。



 恐ろしい事この上ない。



 結果、何時間もの間彼らは鬼ごっこを続け、最終的に大通りから遠く離れたこの場所に辿り着いたわけである。



 魔法学校には独自の結界がある。



 先日の《オーディン》の襲撃もあり結界そのものが強化された上、先代の生徒達が密かに作ったの外壁の抜け道も完全にふさがれた。



 結界内に入るには特殊な呪文を唱えなければならないが、それを知っているのはここに通う生徒と教師など学校関係者、国王、そしてシェイラとルミアだけ。



 ジンノ達特殊部隊すらまだ知らない。



 シェイラ達二人に関しては思いっきり私用だ。職権乱用だ。



 だか、そのおかげでジンノの猛追を逃げ切ったのだからまあ結果オーライだろう。






 幹を背にもたれかかり、荒く息を吐いて肩を上下させるシェイラ。



「はあ、はあ、はあ、...こ、殺されるかと、思った...!ハア、ハア、」



 本当に、心の底から、命のキケンを感じた。



 相変わらず恐ろしい男である。



 実のところ、ジンノはそこまで二人のデートに関して腹を立ててはいなかった。



 魔法学校に逃げ込んだ段階で追うのも止めたし、ルミアに気付かれないように細心の注意を払ってやった。



 だからと言ってそう簡単にルミアと二人きりでデートさせるのは気にいらない。



 何とも複雑な兄の心境である。



 というか、その兄の心境とやらをこの男はこじらせすぎだと思う、絶対に。



 行き過ぎた兄の妹を守る(溺愛する)純粋なる気持ち故、全力で邪魔をしたジンノたちは今、もう十分気が晴れた言わんばかりにシェイラ捜索を終了、それぞれ思い思いに出店を回り、祭りを楽しんでいた。


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