櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
「シェイラさんっ!!」
「ル、ルミ...!!」
「どうしたんです!?誰にやられたんですかっ」
シェイラを見つけたルミアが慌てて駆け寄ってくる。
心配そうに走り寄ってくるその姿に、(可愛いなあ...犬みたいだなあ...)などと思い疲れ切った顔を緩めた。
ルミアはシェイラの前に膝をついて、赤く腫れた頬に手を伸ばす。そして治癒魔法を。
温かな光がルミアの手から溢れだし、シェイラの傷を癒していく。
「この傷...殴られたんですね」
「...イテテ」
「じっとしてて下さい。すぐに治しますから。それにしても信じられない!誰がこんなこと!!」
「(君の兄貴だよ...)ハハ...」
王子に手を出すなど、この国でそんなことが出来るイカレ野郎はジンノぐらいだ。
少し考えればわかることだが、ルミアにとって彼は良き兄。
そんな事しでかすとは思いもしないだろう。
空はすっかり茜色。その奥には夜の闇も見え隠れしている。
二人は隣り合って座り込み、幹にもたれ掛ってその空を見上げた。
「ごめんなあ...結局いつもの場所だ。祭りも今からが本番だってのに」
「しょうがないですよ。シェイラさんが一緒じゃなきゃ意味がないですから」
「!ほ、ホント!?」
思わぬところで思わぬ言葉を聞け、疲れ切って動けないシェイラの落ち込んだ顔がぱあっと華やぐ。
「当たり前じゃないですか。...始めは、デートって言われてどうしたらいいのか分からなくて色々戸惑ったけど、実際はすごく楽しかったし、シェイラさんとじゃなきゃそうは思えなかったと思うんです」
「ルミ...」
「シェイラさんとじゃなきゃ嫌」
そう言ってルミは口を尖らせる。
「~~っルミ!!」
「うわっ!シェイラさん!?」
たまらなくなったシェイラは勢いよくルミアに抱き付いた。
驚いたルミアは目を丸くして固まる。
「ど、どどどうしたんですか」
「うーん、ちょっと幸せな気分に浸ってるだけ」
そのままシェイラはルミの肩に顔をうずめる。
息を吸えば、鼻腔にルミアのいい香りが充満する。
こうやって彼女を全身で感じるたびに思うのだ。
「好きだ」と。