櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
あの人
それはグロルの事。
王族分家フィンステルニス一族の当主にして、これまでいくつもの画策をし他の王族たちを殺してきた。フェルダン王家のイスを乗っ取るために。
先の戦いで死にかけたこともあり、今は隔離病棟に事実上監禁されている。
そしてグロルは、ネロの実の父親でもある。
いわゆる妾の子と言う関係。
ネロがその事実を知ったのは少し前の事。
リラの口からは聞いていない。
だが、
母がいまでも、グロルを愛していること
それだけは分かった。
「ほんと、あの人に似てる。まっすぐで優しくて、字もよく似てるわ。懐かしいな...」
見たこともないくらい優しい表情で手紙を見つめるリラ。
そんな母を見て、純粋に知りたいと思った。
きっと母は自分たちの知らないグロルを知っている。
犯罪者グロルではなく、一人の人としてのグロルという男を。
「なあ母さん」
「なーに?」
「......俺の父さんって、どんな人?」
リラの動きが、一瞬止まった。
だがすぐに元に戻る。
「そうね...もう誰が父親か知ってるんだもんね。話してもいっか......」
こっちにおいでと手招きをするリラに従い、ネロは隣に座った。
ゴロ助は気持ちよさそうに膝の上で眠っている。
「知ってると思うけど、貴方のお父さんはグロル。それは間違いないわ。でもね、今から話すのは貴方が知ってるグロルじゃない。犯罪者としてじゃなくて貴方の父親としての彼の話をするの。それだけは間違えないでね」
「うん...」
やけに真剣な声に、ネロは気を引き締めながらうなずいた。
それを確認すると、リラはゴロ助の背中を優しく撫でながら、静かに語り出した。
と、思ったのだが...
「彼との出会いは魔法学校だったわ。彼と私は同級生だったの」
「...え、ちょ、っちょっと待って」
「んもう、何?せっかく話し始めようとしてたのに!」
いい雰囲気で話し始めたというのにさっそく話を中断され、リラは頬を膨らませた。
しかしネロも黙っていられない。
「母さんが何で魔法学校にいんの?」
そう、ネロは今までリラは魔力を持たない普通の人間だと思っていたのだから。
「あら、言ってなかったっけ?母さん魔法使いよ」
「...はああ!!?そんなの初耳だよ!なんでそんな大事な事黙ってたの!!」
しょっぱなからのとんでもない爆弾投下にネロは目を剝く。
「いいじゃないそんなに怒鳴らないで。それより話中断しないでよ、せっかく気持ちよく話し始めたのに!」
「もう邪魔しないでね!!」と、ぷんぷん怒るリラに制され、ネロは突っ込んだ話もできずに黙り込んだのだった。