櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ







 ◇





 ふわふわ


 ふわふわ、ふわふわ




 空に浮かんだ白いもふもふの上はこんな風に柔らかいのかな




 雲の上に寝そべる夢を見ていた彼は、甘い香りに誘われるようにゆっくりと目を開けた。


そこは建物の中。


ドーム型のその建物は壁一面が本で埋め尽くされていて、窓が一つ、扉が一つ


 それだけしかない、とても閉鎖的で殺風景な場所だった。


しかし森の中でしか生きてこなかった彼にとってはそのすべてが初めて目にするもので


 大きな目を見開き、その全てを見渡す


自分が寝そべっている真っ白モフモフのクッション


 目の前に置かれた甘い匂いのミルク


 そして、自分の隣で丸くなって眠っている白い髪の少女。




 その少女の、髪と同じく白い睫で縁どられた瞼が、ゆっくりと開き


 空よりも濃く、海の底のように深い藍の瞳が彼をとらえた。



 
 初めて見る人間と言う生き物。


 その穢れなき純白の姿はあまりにも神秘的で、神々しくて


 彼は一瞬、現実を忘れた




 その彼女こそ、当時から異才の美しさを放っていた、まだ幼いルミアであり


 彼女の手によって、命を落とすはずだった彼は再び生きながらえた。




 名前はまだない。





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