櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
そんなある日
イーリスが生まれて三度目の満月が昇った次の日の朝、彼の身に異変が起きてきた
人の身体になっていたのだ。
朝目覚めて、ルミアの隣でそれに気づいたときには焦った。
イーリスは自分が人狼とは知らない。
人の身体に変わるなんて知らなかったのだから
戸惑うイーリスに、後から起きたルミアは目を丸くする。
そりゃあそうだろう
見ず知らずの男の子が、裸で隣に居たのだから。
「え、...誰?」
「!...あ、...ぅ」
理解は出来てもまだ言葉をしゃべれないイーリスは、ルミアのその表情を見て怖くなった。
捨てられる、また一人になってしまうと
(嫌だ...!!)
そう思って涙を浮かべた時、彼の頭からぴょこんと獣の耳が生えた。
「あ、...耳...」
「...う、?」
「これ、もしかして...イーリス?」
「!!!」
ぱあっと顔を輝かせてコクコクコク!と大きくうなずく。
「うそお...でも、目の色と髪の色は一緒だし...本当にイーリス、なのね...」
「ぅぅ...」
「人に変われるなんて、...もしかして人狼一族のなのかなあ」
それより服を着なきゃね。
「ぅ??」
はてなマークを浮かべて首をかしげるイーリスの為に、ルミアは早速行動を始めた。
今は使われていない兄の部屋から、とりあえず適当に服を持ってくる。
(黒ばっかり...イーリスに似合わないかも...)
一番無難な、グレーのスウェットとパンツをイーリスに渡して着替え方を教えてやる。
下はスムーズにやれたが、上の服は難しく四苦八苦して、ようやく着替え終えた。
獣の耳はいつの間にかなくなっていた。
「サイズはちょうどだね...少し大きいかな。でもまあ、大丈夫そう...」
「うぅ...あ...」
「どうしたの、イーリス?」
口ごもるイーリスに、ルミアは彼はまだしゃべれないんだと悟る。
人の姿になったことに戸惑っているという事も。
もはや、目の前の男の子と、イーリスが同一人物であることに一抹の不安も感じない
魔法使いであるために本能的に感じ取れる魔力の香りが同じだったから。
ルミアは、自分と同じくらいの年頃の不安そうな顔をした少年を抱きしめた。
優しく、ジンノが自分にしてくれたように。
「怖くないよ、イーリス」
「っ!!」
「私、ずっと一緒にいてあげるからね...」
抱きしめながら背中をポンポンしてあげる。
思いがけず人と人同士の温かな触れ合いを体感し、イーリスの顔に熱が集まる。
胸がきゅうぅとしめつられて苦しくて。
イーリスは我慢ならず、再び頭にぴょこんと獣の耳を出してしまうのだった。