櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ





 ◇




 イーリスが人の姿になって数日がすぎた。



 簡単な言葉なら話せるようになり、人の身体を楽しむようになった。


 不安も戸惑いもあったが、なによりルミアと同じ体になれたことが嬉しかった



 しかしまだ体は不安定なようで、感情が揺れると時たま獣の耳やしっぽが顔を出す



 人と違うその体になる度に泣きそうになるイーリスだったが、ルミアはにこにこ笑って耳や尻尾を触った。


 怖がることなく、その存在を認めてくれた。


 それがたまらなくイーリスの心を刺激して、余計に耳や尻尾の戻りが遅くなるのだった。





 それからイーリスが獣の姿に戻ることはなかった。


 人の姿でいることにも慣れたようで、獣の耳が出ることもなくなった。





 ルミアはたくさんの事を教えてくれた


 人の言葉を


 イーリスが人狼一族の一人であろう事を



 人狼とは人と獣の二つの身体を持った生き物であること


 魔法使いと言う不思議な力もつ人間がいること


 ルミアも魔法使いであること


 様々な物の名前、どうしてそれが存在しているのか



 その中で知った。


 生き物は皆、母と父という自分を産んでくれた存在を持つことを


 血と言う確かなもので繋がれた家族と言う尊いものを生まれながらに持っている事を




「受け入れてもらえなかったり、喧嘩だってあるし、嫌われることだってある。でもその繋がりは絶対なの。生まれた時から一番特別で、死ぬまで一番そばにあるの。だから、大切にしなきゃいけないんだよ」




 その言葉を聞いたイーリスは思った。



 自分が目を覚ました時、母も父も存在しなかった


 気づいたときから一人だった


 どうしかも、何故かもわからない




 ただ一つ確かなのは、彼が目を開けたその時には、家族と言うものがもうなかったのだという事


 それと、自分は彼女の家族ではないことだけ


 
 



 そうして



 イーリスがルミアと出会ってからちょうど二か月と六日
 


 ルミアが別荘から、王都に戻る日がやって来た。





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