櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
来ると予想された衝撃は来なかった。
痛みも。
その代わり彼を襲ったのは、異常なまでの冷気だった。
思わず閉じていた瞼を開ければそこには、人狼に対して果敢に戦いを挑む白い少女の姿。
振り上げた腕を含む人狼の半身が見事に氷漬けにされている。
「イーリスっ!!」
「...ルミ...っ!?」
駆け寄ってきた彼女は森の中を走り回っていたのだろう、足元は跳ねた土で汚れ白い髪は珍しく乱れていた。
「イーリス大丈夫?血が...」
「ルミ、どうして...?」
「イーリスこそどうして居なくなったりしたの?心配したでしょう?」
「それは...っ!!?」
言いかけた時、イーリスは目を疑った。
ルミアの背後で、半身を凍らされた人狼が残った腕を振り上げたから。
「ニンゲン...!!!」
怒りに満ちた声で、ルミアを叩きつけた。
日頃から鍛錬に勤しんでいることが功をそうし、ルミアはイーリスを庇いながらも必死に氷壁の壁でガードする。
しかし、人狼は強かった。
あらゆる生物の食物連鎖の頂点に立つとさえ言われる事もある存在だ
ルミアが造り出した分厚い氷壁さえもやすやすと破壊して、ルミアごと弾き飛ばしてしまったのだ。
「う゛あっ!!?」
「ルミっ!?」
ルミアは当時から抜きん出た強さを持っていたが、強いと言っても女性で子供。
圧倒的な大きさと力にはかなわなかった。
飛ばされたルミアは氷の破片で額から血を流し、傍に会った大木に背中を酷く打ち付けて気を失ってしまった。
白い肌が深紅に染まる。
大嫌いな鉄の香りが充満する。
それを発するのは、他でもないルミアで、
イーリスの理性のたがが外れるには十分だった