櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
◆
──それはグロルとリラの
小さな小さな恋物語──
◇
フェルダンで唯一の魔法学校
その中等部校舎の中庭。
花や草木で鮮やかに整えられたその場所には、白いベンチとテーブルがいくつか備えられている。
日当たりもよく爽やかな風も吹き抜けるそこは、学校内で昼食をとるのに一番人気の場所だった。
毎日のようにその場所を求め争奪戦が起きるのだが、唯一、一箇所だけ生徒が誰も近寄らない席がある。
なぜなら、そこに座る人が決まっているから。
フェルダン王国第一王子シルベスター・フェルダン
そして、王族四大分家フィンステルニス一族長男、グロル・フィンステルニス
この二人の王族だ。
当時十五歳の二人は、身分からしてやはり別格だった。
いくら平等社会の学校といえ、人々は無意識に彼らを意識し、幼心に近づいてはならないと感じてしまう。
この、一つだけ誰も寄り付かなくなったベンチが、顕著にそれを表していた。
良くいえば特別扱い、悪くいえば避けられている。
だからと言って、別にどうするということでもない。
身分というものが存在している時点で、そうなってしまうのは仕方の無いことなのだ。
今日も彼らはそこでお昼を食べる。
「グロル、それ食べないのか?おいしいのに......」
「......ああ」
見かけによらず、痩せてるくせに大食らいのシルベスター。
食の細いグロルがデザートを残しているのを見つめて、物欲しそうにヨダレを垂らしている。
王族の学内での昼食は、王宮に使えている料理人が専任で作るのが普通だ。
先生も特別につけられる。
しかし、シルベスターはそれらすべてを断った。
元々身分制度を快く思っていなかったシルベスターは、学校にいる間のみ、そのほかの生徒と全て同じよにして過ごすと言い出したのである。
初めこそ難色を示した大臣たちも、シルベスターの父、当時の国王からの一声ですぐに意見を一変させた。
当然、王家フェルダンと分家のフィンスには、同じ王族と言えど従属関係が成り立っているため、シルベスターが皆と同じように学校生活を送るなら、グロルもそうするしかない。
現に今も、グロルの手元にはシルベスターと同じ、学食のご飯が揃えられている。
しかし彼は、身分に従い、シルベスターと同じようにしているわけではなかった。
グロル自身が、シルベスターの意見に純粋に賛同し、同じようにしていたのだ。
「......デザート、いるか?」
「いいのか!!ありがとうっ!」
顔を輝かせてデザートを頬張るシルベスター。
そんな友を優しい笑みで見つめるグロル。
当時のグロルという男は、
無口で愛想がなくて、少しばかり怖い顔をしていたが
ただ不器用で勘違いされやすいだけ
笑うことだって出来る
心の優しい男だった。