櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
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小鳥の鳴き声と共にフェルダンの夜は明ける
いつものように、その歌うような声でイーリスは目を覚ました
がっしりと大きな身体は上半身何一つ身に纏うことなく陽の光にさらされる。
髪をかき上げ、白いシャツを羽織った
彼には珍しく随分と長い事眠っていたようだ
鳥の声で目が覚めるなんていつぶりだろう。
人狼は夜行性なのか夜は目が冴えてしまい眠れないことの方が多い。
(昨日の晩は、朔だったか...)
人狼として生き、気づいたことの一つに《月》との関係がある
満月に最大の力を発揮し
新月に力は最小になる
新月と言っても月が無くなるわけではないので、その体が一番人間に近づくと言った方がいいかもしれない。
だから夜も眠くなるし、滅多に見ない夢も見る。
昨日は新月、つまりは朔の夜だった
(だから...夢を...)
イーリスが見る夢は二つだけ
生まれてからルミアに出会い家族になるまでの夢
もう一つは、ルミアを亡くした時の夢だ
あれ以上の悪夢はない。
ルミアがいなくなった日、イーリスは部屋で彼女の帰りを待っていたのだ
ただ、待っていただけ
もう二度と帰ることのない彼女を待っていただけだった