櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
「イーリスーー、起きてるー?」
「! ...起きてるよ、ルミ」
ぼんやりと窓の外を見ていると、ルミアがやって来た。
明るく元気な、イーリスの大好きな声
その容姿は昔と比べれば随分と大人びたが、心は何も変わっていない。
純粋で、慈しみを持って、素直に人を愛せる
(ひねくれもんのジンノとは相変わらず似てないな...頑固なのは一緒だけど...)
と、心の中で小さく笑った
寝室に入ってイーリスを見つけたルミアが笑顔で駆け寄ってくる。
そのまま懐に突っ込む彼女を大きな体で受け止め、ぎゅっと抱きしめるイーリス。
毎朝の日課だ。
まだ整えられてない無造作ヘアーのイーリスを見上げて「おはようっ」と可愛らしく言う。
何度その笑顔に癒されてきたか、すっかり緩んだ顔でイーリスもまた、「おはよう」と返した。
「ルミ、昨日の祭りはどうだった?楽しめたか?」
「うふふっそれなんだけどねーー」
楽しそうににこにこ笑いながらルミアは懐から綺麗にラッピングされた包みを取り出した。
「何だ?それ」
「これね、イーリスにプレゼント!」
「...プレゼント...」
「お祭りの時にね、職人さんに手伝ってもらいながら作ったの」
袋から取り出したそれは、ルミアの魔導石が埋め込まれたフープピアスだった。
黒い宝石のような魔導石
ブラックダイヤモンドさながらに美しくカットされたそれがプラチナによく映えている。
そして魔導石とは別にイーリスの目に留まったのがプラチナ部分に施されたデザインだった。
「これ...」
「あ、それね!綺麗でしょう。アイリスの花だよ」
そう、
そこに掘られていたのは、イーリスの名の由来であるアイリスの花だった。
「イーリスって人に贈るって言ったら、手伝ってくれてた職人のおばさんが何か由来するものを彫ってみたらって言ってくれてね。確かに魔導石だけじゃ物足りなかったから、じゃあアイリスの花を彫ってみよう!っていう事になったんだけど、流石に私じゃ無理だったからおばさんにまるっとお願いしちゃった」
えへへ、とルミアは申し訳なさそうに頭をかく。
「...綺麗だ...いいのか?俺が貰って。俺、別に何も準備してないぞ。誕生日でもないし...」
「いいのっ日頃のお礼!それにイーリスだけじゃなくてね特殊部隊の皆にも作ったんだ」
「そうなのか...じゃあありがたく貰うとするかな」
「うんっ」