櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
「テオ兄さん…舞闘会の話、聞いた?」
「ああ……」
二人は一様に暗い表情を浮かべる。
彼らはつい最近まで、弟の生存を知らなかった。
先日、ジンノが引き連れてきたフェルダンの騎士一行の中にその姿を確認するまでは。
「どうしよう兄さん、うちの国がフェルダンに行くとなったら僕達は絶対に行かなきゃならない。それに観戦だけならまだしも、もし、トーナメントに選ばれでもしたら…!!」
「…確実に、顔を突き合わせることになるな……」
「そんなことになったら…僕、どんな顔でマティに会ったらいいか…ましてや、剣を交えるなんてことできるはずないよ…!」
じわりと涙を浮かばせるカリス。
「俺だって、そうだよ…」と、テオドアも苦しそうに表情を歪ませた。
「…だが今更どうしようもない。舞闘会は一か月後、俺達は曲がりなりにも軍のトップだ、行かないわけにはいかん」
俺達の罪に向き合う時が来たのかもしれない。
「これまで、必死に償ってきたつもりだったが、本人にじゃない。俺達の自己満足にすぎないものだった…覚悟をしよう。もう、俺達二人の問題じゃなくなったんだ」
「テオ兄さん…」
行こう、フェルダンに。
「…その先にどんな結果が待っていたとしても、それは全て、俺達が受けるべき『罰』であり『業』だ」
テオドアのその言葉に、カリスは涙を浮かべながらも頷く。
二人の重く苦し気な思いとは裏腹に、王国は舞闘会に向け着実にこれまでにない盛り上がりを見せていたのだった。