櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
『…それくらいしか渡せるものがない』
グロルはシルベスターに、そう言った。
自分には父である資格も名を呼ぶ事もできないが、何でもいい、何かしたいと。
『……頼むよ、シルベスター。もしフィンス家が存続するというのなら、俺や俺を見て育ったアネルマより、リラの綺麗な心で育てられたあの子が…特殊部隊の騎士達にもまれて育ったあの子が…当主になるにふさわしい。…きっとフィンス家は変わるよ、他の一族と同じまっさらで綺麗な一族に。ネロならきっとそうできる…』
だから頼む。
「まったく…あんなまっすぐな目で、旧友に懇願されちゃあ…俺も断れないじゃん。自分も同意見なら尚更さあ…」
「…俺に愚痴るの、やめてもらえません?」
机につっぷし頬を膨らまして文句をたらたらこぼすシルベスターに、呆れた様にネロはそう言う。
一国の王にあるまじき姿勢だ。
ネロは大きくため息を付き、部屋を出ていく。
あ、待って…!と止めるシルベスターに、振り返りながら言う。
「フィンス家の話は妥協案で手を打ちます」
「…ホントか!!」
「それと陛下、あの人に言っといて下さい」
「?」
「俺に気を回すぐらいなら、さっさと母さんと結婚でもして早々に腰落ち着かせろって」
じゃ、これで。
それだけ言い残し、ネロは部屋を出ていく。
残されたシルベスターはと言うと。
「…ありゃりゃ、息子に気い使われちゃってやんのーーあいつー」
そう呟き、おかしそうに笑っていた。