櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ





 部屋を出たネロはハア、とため息を付く。



(ったく、何で俺が王族なんて…)


 と、面倒くさそうに頭をかきながら廊下を歩いていると。


 少し先の部屋の扉がバンッ!!と勢いよく開き、中から何やらひらひらした服を着た女性が飛び出してきた。


 よーく目を凝らして見る。


 まだ途中だったのだろう、まだきちんと着終わってないドレス。その長い裾をたくし上げ、歩きづらそうなヒールでこちらに向かって猛ダッシュする彼女。涙を浮かばせる黄金と濃紺の大きな瞳。セット途中の純白の髪。


(あれって…もしかして、もしかしなくても…)


 嫌な予感がして顔を引きつらせるネロを、彼女の目が捕える。


 そして



「ネローーー!!!!助けてええぇえええ!!!」


「…やっぱあんたか!ミア嬢!!」



 ルミアは涙でぐしょぐしょになった顔をさらしながらネロへ向かって助けを求めんばかりに駆けてきていた。
 


「ミア嬢、一体どうしたの…!」


「ううぅ~~もうやだぁ!!」



 ネロの背後に回り、怯える子犬のごとく震えて隠れている。


 強い彼女がこんな風になるなんて。


(一体何が…)


 そう思い彼女が走ってきた方向を向いた瞬間、ネロの頬がピクリと強張る。



「ルミア様…まだお召し物が三十着以上残っております…!」


「さあ、こちらへ…!!」


「恐がる必要などございません…!!!」



 そこに居たのは数々の豪勢なドレスと装飾品を構え、目をぎらつかせるメイドたち。


 彼女らがさながらゾンビのようにルミアに向かってにじり寄って来るではないか。


 確かにこれは恐ろしい。



「もうやですっ!訓練に戻らせて!!」


「駄目ですよ、国議会と舞踏会まで時間がないのです!!身なりだけでなく王族らしい振る舞いも身に付けねば!」


「でも…もう六時間も着せ替え人形状態ですっ!クリスタリアなんて知らない!私は騎士なんです!!闘わせてーー!」


「わがまま言わない!」



 メイドとルミアの間に挟まれたままのネロ。


 自分の身体ごしに交わされる会話を聞いていると、なんとなくだが状況が分かってきた。


 ルミアは下町の祭司の一族、プリーストン家の子供だ。


 しかし前回の戦いで、すでに滅亡したと思われていたクリスタリア一族の血が流れていることが明らかになった。


 それをフェルダン王家が見逃す訳もなく。


 今回の国議会に合わせて、ルミアはクリスタリア一族の一人として正式に紹介されることに決定したのだ。


 もちろん庶民の騎士一家の一人として生きてきたルミアが貴族としての作法などしるはずもない。


 だからここ最近彼女はメイドたちに捕まえられ、ユウの訓練にも顔を出せないほど、王宮に缶詰めになっていた、というわけである。



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