櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
いつもは閉じられている大正門。
それも今回ばかりは前回に開き、豪勢な馬車で長旅を続けてきた各国の一団たちを迎え入れる。
テオドアがいったん外に出て門番を兼ねた衛兵たちと話をつけると、馬車はそのまま門を抜け、まっすぐに繋がるメインストリートを通り、王宮までゆっくりと進んでいった。
フェルダンの街はすっかり歓迎ムード。
古き良き街並みと魔法による装飾が見事にマッチし、キラキラとした鮮やかで美しい光景がヨハン達の眼前に飛び込んでくる。
住民たちも、次々と王都に入国する他国の者達を精一杯もてなしているようで、小さな窓から覗く光景だけでフェルダンと言う国がどれだけ満たされた幸せな国かが一目で分かるほどだった。
王宮前に馬車が付く。
待ちきれず馬車から降りたヨハンは、初めて見るフェルダンの街並みに感嘆の声を漏らした。
「わああ…!!綺麗だ!王都の中にも桃色の花がたくさん咲いてる!すごいっ!すごいよ!!」
興奮するヨハンのあとに続きシュトラウスもフェルダンの地に初めて降り立ち、同様に感動のあまりため息をこぼす。
「ああ!なんと美しいことか。これがフェルダン、平和と太陽の王国か。よく見ておきなさいヨハン、学ぶべきことがきっとたくさんあるぞ」
「はいっ!父上!!」
ワクワクと胸を高鳴らせる彼らの前に、血のように真っ赤なマントを翻しこちらに向かって男がやって来た。
明るめの茶髪をワインレッドのリボンで一つにくくり、普段はしない正装で雰囲気ががらりと変わったオーリングである。
「お待ちしておりました。シュトラウス国王陛下、ヨハン殿下。お会いできて後衛で御座います。申し遅れました、私はオーリング・プロテネス。この度、輪が国王シルベスター・フェルダンの名の下に皆さまのお世話を仰せつかりました。どうぞ、お見知り置きを」
そう言って人のいい笑みを浮かべながら、胸の国章に手を当て恭しく腰を折るオーリング。
その姿に、シュトラウスは目を丸くする。
オーリングと言えばフェルダン内でもかなり高位の王族であり、特殊部隊の副隊長でもある。
ゆえにもっと傲慢で堅苦しい男を想像していたのだが。
アイルドールではまだ地位・階級による差別意識が強く残っている。
貴族は貴族らしく。庶民は庶民らしく。そういう考えの大人が多いのだ。
階級制度撤廃が謳われる現代
王族を始め若い者たちの間ではだんだんと薄れてきているが、古くから続く歴史ある貴族などはまだまだその傾向が抜けきらない。
故に、オーリングの予想以上に礼儀正しく地位の高さを感じさせない腰の低さに、内心驚いていた。