櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ





「これはこれは、貴殿があの名高いプロテネス家のオーリング殿か。こちらこそ会えて光栄だ。よろしく頼む」


「勿体ないお言葉です。長旅でお疲れでしょう、皆様の部屋を準備しております、どうぞこちらへ」


 
 オーリングはにこっと笑い、アイルドールの一団を率いて王宮を案内していく。



「正面に見えるのは議事堂を兼ねた複合施設です。一階から三階までは謁見の間、会食堂、複数の大広間などがあり、四階に大会議実、五階以上には各執務室が設けられています。

 奥には王族居住区がありますが、そこは立ち入りが禁じられていますのであしからず。

 左手には王宮に併設された国立病棟が、右手には皆様がお泊りになります貴人の間(賓客の寝泊り施設)を有する宿泊棟があります。同行の皆様もお泊りになれるよう、部屋を準備していますのでゆっくりと疲れた体を休めてください。次はこちらに」


 
 事前に準備していたおかげか、はたまた彼の手腕ゆえか、オーリングの案内は流れるように進んでいく。


 説明の間、始めての他国の王宮訪問に興味津々なのだろう、ヨハンは落ち着きなくキョロキョロと周りを見回していた。


 自国でも有名になるほどのわんぱく王子ヨハン。


 今すぐにでも冒険したいと顔に書いてあるものだから、横で付き添うテオドアは(先が思いやられる…)と、困った様に大きなため息をつくのだった。




 ◇




 案内された宿泊棟はとても美しかった。


 無理もない、今回の国議会と舞踏会の為に新たに増設改築を行い、外観も内装もがらりと変えていたから。


 頭上にて大きく輝くシャンデリア

 
 色とりどりのステンドグラス


 細やかな彫刻が施された質の良い家具の数々


 ふかふかのベッド


 上等な絨毯



「さすがフェルダン。部屋の趣味もいいではないか」


 と、シュトラウスが思わず漏らすほどだ。


 テオドアも同意する。


「今見てきましたが、付き添いの騎士や衛兵にも相当良い部屋を準備されてます。豪華さと言うより上品さや清楚さを意識されているようですが、それでいて高級感も感じ取れる。王族至上主義や階級制度にうるさい貴族でも文句は出ないでしょう…よく考えられてますね」


「ああ。やはり名ばかりではないな、フェルダンは。我々も見習わねばならん」


「ええ…」 



 シュトラウスは椅子に腰かけながらテオドアに問う。


 ヨハンは広い部屋の中を探検中だ。



「…いくつか他国の騎士達を見たな」


「はい。草木の国アントス、監獄要塞ドゥンケルハイト、天界と名高いエンジェル・リヒトの騎士もいましたね。七大国以外にも続々と集まっているようです」


「ふふ、今回の舞踏会は盛り上がるぞ。テオドアは確か…カリスと一緒に『Tag』に出場予定だったろ。カリスは間に合うのか?」


「おそらく今夜中にこちらへ着くはずです。…また迷ってさえいなければ…」



 テオドアの弟カリス。


 彼は初めこそ、国王軍の軍隊長としてテオドア達と一緒にフェルダンに向かってアイルドールを出発した。


 しかし誰もが認める超絶方向音痴の彼は、その数日後、一人だけ白昼堂々と道に迷い、約一日分遅れてしまっていたのである。


 迷子になっているところをテオドアの部下たちが見つけたとの報告は来てからすぐ、鎖でつないででも連れて来いと命令しておいたが


いまだ心配はぬぐえないと言うのが正直なところである。


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