櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
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アイルドールを始めとした各国がフェルダン王都に続々と集まる一方、王宮内議事堂では七大国の王たちが集まり四年に一度の国際会議、国議会が慎ましく行われていた。
例年議題は様々だが今年は絶対的なものが一つ
暗殺部隊〈オーディン〉の壊滅と、その処遇について。
これは何としても話し合わなければならない議題である。
暗殺部隊〈オーディン〉はその力で数々の主要人を次々と殺し、世界中の国でかなりの猛威を振るっていた。
しかしつい数か月前、ローグの星読みと被害を受けたフェルダンの友好国の申し出により特殊部隊が動き、無事部隊を壊滅させることに成功した。
その後は七大国の一つ、監獄要塞ドゥンケルハイト王国にある、世界の凶悪犯が収監される脱獄不可能な監獄、『暗黒の墓地』フィンスター・フリートホーフへ送られ幕を閉じた。
「さすが天下のフェルダン、あれだけ問題視されていた暗殺集団を呆気なくとらえてしまうとは」
「尊敬に値しますわ。わたくしの国でも事件を起こされたのに、何の手も打てなかったんですもの」
そう言うのは風の国フリューゲル王国の国王アードラーと、光の国エンジェル・リヒト王国の女王アンジュ。
この二人はフェルダンと繋がりが深く、王同士もとても仲がいい。
「そんなことありません、我々も特殊部隊総動員で長期の計画を練り、あらゆる偶然が奇跡的に重なった結果なんとか壊滅に至ったのです。こればかりは運と言っても過言はありませんよ」
「そうだとして、ですよ。フェルダンにはその運をも呼び寄せる力があったと言えましょう。長年で培われた騎士たちの手腕と、全てを見通す星読みの純然たる力、そしてそれを指揮するシルベスター王がいてこそです」
雷の国ドナー王国のオスカー王が謙遜するシルベスターを擁護する。
彼もまたシルベスターの友。フェルダンと言う国を尊敬してやなまない者の一人。とういうよりその騎士であるウィズ・ヴェルナーに大変な興味を抱いているのだが。
「しかし彼らが再び復活する可能性はあるかもしれません。彼らじゃなくとも世の中にはそう言った組織は山ほどあるはずです。オーディンも元は特殊部隊、我らの誇る騎士達も思想さえ異なれば彼らのようになってしまう可能性をはらんでいますから」
「確かに。ここに居る皆がその危険性を認識すべきですわね。ですが収監されたのは『暗黒の墓地』ですもの、脱獄はありえませんわ。ねえ?」
アンジュが懸念を払拭せんと、闇の国ドゥンケルハイト王国の王にして『暗黒の墓地』の看守長を務めるノワール王がそれまで下げていた頭をゆっくりともたげた。
「……心配は無用。如何なる者も逃がさぬ…監獄都市の名の元に」
明らかに悪人顔のノワール。多くは語らず、ただただ無表情に言葉を述べるだけ。
そんな彼に隣に座っていた男が肩をバシバシ叩きながら強気に話しかける。
「ノワール、どうでもいいけどお前いつも言うが怖いんだよ。もっと笑えよ幸せが逃げるぞ」
「…幸せなどいらぬ。死が全て」
「またそう言う事言う。シルベスターも何か言ってやれ」
「義兄さん…無茶言わんでください」
シルベスターの妻フランツィスカの兄、草の国アントスの国王セルバである。
少々他の国の王より奔放な性格である彼に、テーブルごしから喝が飛ぶ。
「おだまりセルバ、ここをどれだけ神聖な場所だと思っているの?国議会なのよ、雑談は他所でやりな」
氷の国ネージュ王国のイセベルだ。
ノワール、セルバ、イセベルは同年代の国王で、幼馴染。小さなころから親交がある。
「なんだよ堅物イセベル!そんなんだから今だに独身なんだよ。独身の王なんて聞いたことないね!」
「なっ…!!うっさいセルバ!あんたこそまた別れたんだろ!?これで何人目だ?人の事なんて言えないくせに、浮気男!人でなし!」
「言ったなこの野郎!」
腐れ縁である二人はよく言い合う事が多かった。
四年に一度の国議会にも関わらずセルバとイセベルは立ち上がり喧嘩を始める始末。
「ちょっっ義兄さん」
「…やめないか見苦しいぞ」
シルベスターとノワールが止めに入るが、
「「ちょっと黙ってろ!!!」」
と何とも息の合ったお叱りに他の国の王たちも呆れた様に首を垂れるのだった。