櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
二人の喧嘩は数十分続き、それに飽きてきた他の王達は別の席に移りお茶会を始める。
初めこそ堅苦しい状態で始まるのが常だが、大体は途中で二人が喧嘩を始めてしまい、お茶会と変貌するのが国議会の真実。
少なくとも過去二回はそうだった。
今年もまた、とは予想していたが…
「お前は昔っからそうなんだよ!いい加減その頑固な所を直せって!だからいつまでたっても男ができねえんだ!」
「はっ!!とっかえひっかえ女と寝る貞操なしに言われたくはないわ!!クズ男!」
「そんな男と付き合っていたのはどこの誰ですかぁーー」
「黙れ!それが私の一生の汚点だということが分からないのか!」
まだまだ終わる気配はないようだ。
「相変わらず仲が良いのか悪いのか…もう十年もこれですわ。さっさと元の鞘に収まればいいものを…頑固も行き過ぎると問題ですわね。あ、この紅茶おいし」
二人を心配するかのように見えたアンジュだったが、その興味はすぐに紅茶に移る、
「まったくだ、この醜態を会議のたびに見せられる我々の身にもなってほしい、せっかくの有意義な場が台無しになってしまった」
「だが話すべきことは全て話し終わったことだしいいじゃないか。ここいらで休憩としよう」
「…お前もたいがいのんきだなアードラー」
「お前が厳しすぎるだけだろオスカー。ほれ、コーヒーだ。飲めよ美味いぞ」
「……こんな苦いもの飲めるか馬鹿者め……ココアはないのか」
「はいはい」
実は仲良し、生真面目オスカーと呑気なアードラーもお茶に移行する。
そんな、とても王同士の話し合いとは思えない光景を眺めながら、シルベスターは自分が一番まともかも知れないと心中で密かに思うのだった。
それから数十分の後、ようやく落ち着いた二人がお茶会のテーブルの方へとやって来た。
「痴話喧嘩は終わったのかお二人さん」
と、アードラーがからかうと、
「「痴話喧嘩じゃない!!」」
これまたピッタリ声をそろえて言うものだから、そこに居た皆が内心噴き出してしまう。
「あら、息ぴったり。仲良しさんね」
「アンジュさん!やめてください、こんなクズと仲良いなんて言われたくない!」
「…でも喧嘩するほどなんとやらって言うじゃない?」
「このバカは例外!」
「そう。この紅茶いかが?美味しくてよ」
まだまだぷんすこ気が立っているイセベルだったが、気ままなアンジュに流され、しぶしぶ椅子に腰かけ紅茶を飲み始める。
そんな彼女を後ろから機嫌悪そうに見つめるセルバ。
シルベスターはそんな彼の隣に立ってコーヒーを差し出しながら、話しかけた。
「義兄さん、コーヒーです。飲んでください」
「…すまん。会議の邪魔をした…」
「いいですよ、ほんの一時間休憩を挟んだだけです」
「…つい、イライラしちまうんだ。あいつと話してると。シルベスターは落ち着いてるからいいな、俺には出来過ぎた義弟だよ、ほんとに。君が結婚相手で妹は幸運だ」
「ハハッ逆ですよ、フランが俺を選んでくれたんです。幸運なのは間違いなく俺の方です」
言葉通り幸せそうな顔の義弟を見て、セルバは羨ましいとため息を漏らした。
「義兄さんも少し素直になれば幸せを掴めるんじゃないですか?」
「…素直に?」
「はい、もう数え切れないくらい女性とは付き合ったでしょう。そろそろ身を固めるころでは?いないんですか、こう、本命の女性は?」
「うーーん…いないかなあ…」
「気になる女性も?」
「いないな、うん」
「……そうっすか」
こりゃあ素直になるどうこうのレベルじゃないな、と肩を落とす。
傍から見たら想い合っているのは明らかなのに本人たちがなかなか気づかずに前に進めない。
このヤキモキした状況は、どこかの誰かさんたちとよく似ていて。
どうにか出来ないものかと策を講じるシルベスターであった。