櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
王達がテラスから夜空を眺めている頃。
その同時刻、王宮の広い裏庭に小さな人影が。
アイルドール王国の王子、ヨハンである。
フェルダンに来てわんぱく坊やの冒険心に火が付いたヨハンは、テオドア達の目を掻い潜り、王宮内を探索していた。
(広い庭だ…手入れも行き届いてるし、植物も皆生き生きしてる…フェルダンの気候が影響してるんだろうか)
鑑賞しながら庭の中を歩いていると一角にバラ園を見つけた。
中央に噴水があり、それを囲む様に色とりどりの薔薇が咲き乱れている。
感嘆しながらその中を歩いていると、薔薇のアーチの奥に真っ白なガゼボを発見する。
ガゼボとは、庭園などに設けられた屋根付きの休息所のようなもの。
月明かりの下に照らされるそこには、人の姿があった。
ベンチに寝そべり月の光を全身に浴びて眠っているように見える。
見つかったらまずいかと思いつつも好奇心が先に出たヨハンは足音を立てないように細心の注意を払いつつそっと近寄る。
あともう少しで顔が見えると思えるところまで近寄ったその時
「夜の一人歩きは危険ですよ、王子」
「!!!」
寝ていたはずの男がそう言ったのだ。
ヨハンは飛び上がらんばかりの勢いで驚く。
そこに居たのはイーリスだった。
「あ、あなたは、あの時の…!」
「お久しぶりです。アイルドール以来ですね王子」
上半身を起こした彼の、穏やかな笑みと頬の獣傷で思い出したヨハンは、イーリスに向かって走り出し、その勢いのまま抱き付いた。
「お久しぶりです!また会えるなんて!!」
「私もこんな夜遅くにお会いできるとは思っていませんでしたよ」
「いつから僕だと気づいてたんですか?」
「裏庭に入って来た辺りから」
「ええっ!そんなとこから…」
「フフ、私は人より耳がいいんです。探検もほどほどにしませんと、貴方を探し回ってるお付きの騎士に怒られますよ」
「え゛、…テオドアにばれてる?」
「とっくに」
そう言うとヨハンは酷くまずそうな顔をする。
イーリスはおかしそうに笑った。