櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ





「うっし!」



 無事一つ目の勝利をおさめたユウ。


 クロウの身体を吹き飛ばした自身の拳を見つめ、これまでの訓練の日々を思い返していた。




 特殊部隊による指導を受ける様になってから、ユウはただただ体術訓練ばかりを行ってきた。


 イーリス曰く、それが真の騎士になる為の最たる近道なのだと言う。


『世の中にはジンノやネロの持つ闇の魔力のように魔法界の中でも殺傷能力の高い戦闘向きの力を授かった人間が少なからずいる。ユウの氷の魔力もその一つだろう。だが、そう言った人間に限って、魔力に頼りきった戦闘を行ってしまいがちになる。そうなると、その騎士の成長は見込めない』


 高度な呪文、魔術を極めることも大事だろう。


 しかしあくまでも闘うのは『自分自身』なのだ。


『もし万が一なんらかの理由で魔力が使えない状況に陥ったら?己の力が不利に働いてしまったら?圧倒的な強者が目の前に現れたら?…自分の力を真に過信した者は、過信している事にも気づかず無条件に自分が負けるはずない、自分より強い者など現れない、などと思い込んでいるものだ。
 フェルダンの特殊部隊では魔法使いとして強くなるための訓練は一切しない。魔力の強化も、新たな術を身に付けることもない。俺達は常に自らが弱い者と仮定し強者に負けない為の訓練をやる。だからこそ、最後まで信頼できる己の拳の力を、体術を磨くんだ。魔法の力を奪われても、大切なものを守れるように』


 魔法の力はあくまで副産物。


 天から授かった、使えたらラッキー!ぐらいの意識であるべきなんだ。


 強い魔法は自力で学べ、戦場でも試合でもどこでもいい。訓練では何も指導しないからな。





 クロウに拳をふるった時、イーリスの言ったことはこういう事か、と妙に納得した。


 魔法が全てじゃない。


(これが…フェルダンの闘い方)


 自分は弱い


 弱いからこそ、相手が強いと認めているからこそ、負けないための闘いができる。


 それが強さに、守ることに結びつくのだから。




 ユウは拳を一層強く握りしめ、隣のステージを見る。


 そこに立つのは一人。


 どうやら隣も、勝敗が決したようだ。




『ドナー王国代表ブリクサム・L・ドナー、戦闘不能により脱落。アントス王国代表シュベルマー・ヴェール、四回戦進出』




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