櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
四回戦、つまりは決勝。
控室にてわずかばかりの休憩を取っていたユウの前に、対戦相手であるアントス王国のシュベルマーがやってきた。
「初めましてぇ。あんさんがユウ・アルシェであっとりますぅ?」
「あ、はい…」
「俺、シュベルマーいいますねん。皆にはベル言われちょりますぅ、よろしゅうに!」
にっこり笑って手を差し出す。
やたらと人がよさそうにしているが、その笑顔が何だか異常に嘘っぽくて。
「…猫被ってません?」
と、思わず口に出していってしまった。
「ありゃ、バレた? アッハハ!!」
「……」
しまったと思ったが、シュベルマーは笑い飛ばすに終わる。
「俺、嫌われやすぅてな。元の性格が災いしちょるん思ぅてわざわざ猫被っちょるんですがねぇ」
「…バレバレっすよ。やめた方がいい」
「そうかいな?でも…あんさんとは仲ようしとう思うてるんで、もう少ぅし猫被りやしょう」
俺とお友達になってくれやせん?
にっこにっこ笑いながら、シュベルマーはそう言った。
ユウは展開について行けずキョトンする。
しばし沈黙が流れ、
何と答えたらいいか散々迷った挙句、絞り出した答えは。
「…試合が終わったら、考えます…」
という何ともふわっとした答えなのだった。
シュベルマーは、笑顔のまま黙る。
その沈黙がやけに意味深で。
ユウは疑問に思うものの、それの訳を知る前に二人へお呼びがかかった。
「ユウ様、シュベルマー様。会場の準備ができましたこちらへ」
「あ…はいっ」
「……」
二人は立ち上がり、会場へ向かう。
その道中、灯りが少ない中を二人で並んで歩きながらシュベルマーはポツリと呟いた。
「…試合後ねぇ、だったら無理かも知んねぇなぁ…」
「……?」
ユウはちらりと横目で覗き見る。
顔を伏せていたため、その表情のほどもその後に呟いた言葉も、ユウは届かない。
長めの前髪の下、シュベルマーは口の端をぐっと引き上げニヤリと不気味に笑いながら、深緑の眼光をぎらつかせて
「…だって、あんさんはここで…死んじまうんだからなぁ……」
と、白い歯をのぞかせてほくそ笑むのだった。