櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
『さてさて!!〈Tapfer〉部門、最後の試合です!!その笑顔とは裏腹に残忍無比・極悪非道、派手な攻撃の数々で勝ち上がったアントス王国代表、シュベルマー・ヴェール!対しますは、一切魔法を使わずに闇の魔力に打ち勝った、魔法の実力がいまだ不明のフェルダン代表ユウ・アルシェ!!
若手とは思えぬ激闘を繰り広げた両者!決勝戦では会場全体を使った全力の闘いを見せてくれることでしょう!!!』
やや興奮したアナウンスが流れる中、会場の中心でユウたちは向き合う。
変わらずニコニコのシュベルマー。
それを前にユウは怪訝な表情を浮かべた。
(…なんか気に障るんだよな、あの上っ面の笑顔…なんでだろう、誰かを見てるみたいだ…)
「俺の顔に…何かついてやす?」
「…いえ、」
二人の間に流れる不穏な空気を取り払うように、決勝の開戦の合図が鳴り響く。
『決勝、開戦だぁあああ!!!!』
その瞬間、ステージが爆発する。
黒煙が充満する会場
そこに人がいるかも分からないほどのそれの中で、グネグネとうごめくものが何かに衝突したのが見えた。
「あんさぁん、見ぃつけたー」
濁った煙をかき分け、笑みを向けながら歩いてくるシュベルマー。
彼の周りには巨大な木の根が地面から何本も生えて、何かを捕えている。
煙の隙間から青い髪が見え隠れしていた。
「ユウさーん?…あれ??」
しかしそこに居たのは、不完全ながらも氷の魔力で作られた擬態、ニセの身体だった。
気づいた時、シュベルマーの背後の煙の中からユウが飛び出し、氷の刃を振るって真横からぶん殴る。
横に若干飛ばされながらも、額から血を流すにとどまったシュベルマーはにっこり笑った。
「流石やわぁ、えらい俊敏な動きでごぜぇやすね。視界を遮られた上で俺の根から逃れるのは至難の業やと思うていたんですが…」
「…あんた、さっきの試合でもこの技をこの手順通りに使ってたでしょう。予想はできます」
「アッハハ!見てたんかぃな!まったく楽しくなりそうやぁ!!」
〈フローラ〉サーバンルート
「…ヤマタノオロチ」
両手を地面につき、そう呪文を唱えた途端
大蛇のような形の野太い木の根が地中から溢れ出てユウに弾丸のような速さで向かっていく。
それをユウは軽やか身のこなしで見事なまでに避けて避けて避けまくる。
右、左、真下、時には背後から。
その全てを避けつつも、シュベルマーのコントロールにより動きを封じられていく。
周囲を囲われ、身動きがこれ以上取れない状態にまで追い詰められたユウを見計らって、根の大蛇が口を大きく開き頭上から襲い掛かって来た。
だが、
〈アイス〉グレッチャー
次の瞬間、根を張ったステージ全体が分厚い氷に覆われ、その動きを止めた
その間わずか一秒未満。
まばたきをする間に変わった氷河期さながらの世界の中、凍る蛇の上に立つユウの口元から白い息が漏れ出ていて。
青い瞳が一際輝きを放つ。
ユウが、大勢の人々の前で、初めて自分の力の片鱗を垣間見せた瞬間だった。
「すげぇ…!!!」
「一瞬で、これだけ!!ただの運動神経がいいだけの青髪じゃなかったか…!」
先に闘い、脱落していた騎士たちが驚きのあまり声をあげる。
その中に先程敗れたクロウの姿も。
シュベルマーは、深緑の瞳を覗かせ笑みを深くする。
「これが…!!あんさんの力ですかぃ!!!ますます興味が湧きやすなぁ!!」
これからが本番ですぜ!!
その狂気じみた笑みが、言葉通りすべての始まりになるのだった。