櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
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それから十分ほどたった頃
「おいおい、マジかよあれ……」
どよめく観客たちの見つめる先、ユウ達が闘いを繰り広げるそこで
ステージの状況は一変していた。
埋め尽くしていた氷は跡形もなく、一面が焼け野原のように業火に包まれ
その中央には野太い何本もの根に身体を捕らわれた血だらけのユウがいた。
力なくグッタリとしたユウの前に、ぼろぼろになりながらもニッコリ笑うシュベルマーの姿。
しかしその笑顔は最早、『人の良さそうな笑み』などと言える代物ではなく、
戦闘に興じる狂った人間の笑みのようだった。
ユウが一面を銀世界に変えた後、シュベルマーの闘い方は徐々に激しい方向へとエスカレートしていった。
草と炎の二重属性使いである彼は、それ自体が起爆剤と成り得る独自の植物を使い、捕縛と爆発を主軸とした派手な攻撃を行う。
時に爆煙で視界を多い、背後から狙い撃ちするというパターンは多かった。
そういった動きを、これまでの訓練のおかげもあって戦いの分析力が上がっていたユウは、しっかりと見極め判断し最も有効な手立てで対応していた。
それは、シュベルマーの闘いが激化してもなお対応できるほどに。
故にほんの先程までは、どこの誰がみてもユウの方が完全に優勢だったのだ。
しかし、
一瞬、ほんの一瞬
ユウの耳元でシュベルマーが何かを呟いた途端、ユウの動きが鈍った。
次の時には今のこの状況である。
目に見えてわかるほどの変化をもたらしたのは
『オーディン』
またも、その言葉だった。
「あんさーん、生きてはりますかぁ?」
血だらけの身体を根に囚われ動けずにいるユウに、シュベルマーは笑いながら問いかける。
「ゲホッ…ハァ、はぁ、っ…まだだ!」
「丈夫な身体ですなぁ、何発も爆発を浴びてまだ息があるとは。さすがフェルダン、いや、流石オーディンといいましょうか」
「ッ…!!」
「俺はいいんですよぅ、あんさんが人殺しの一族の人間でも。強い人は好きですからねぇ。ですが、殺し屋の一人でありながらぁ、自分はのんきにご優秀なエリートの騎士になろうとしてるたぁねえ。それは気にいらない。一人だけ罪を逃れてるつもりですかぃ。だったら傲慢じゃあありやせんか」
彼の閉じられた目から薄く除く深緑の瞳。
鈍く輝くそれの奥に、ユウは確かに『怒り』を感じた。
表面上はにっこり笑っていながらも、その上面が隠しきれていない『憤り』を。
「俺はねぇユウさん。強い人間も闘う事も大好きですが、罪を逃れ順風満帆に生きる人間はぁ…どうも鼻持ちならないんですよぉ。腹の奥底から、湧き上がるんです。頭で声がするんです」
『殺してしまえ』って
そう言ったシュベルマーは、一瞬、その表情から笑みを消し囚われのユウに向かって手を伸ばし呪文を唱える。
そして
「…さいなら」
ユウの身体は、爆炎と業火に包まれ消えていった。