櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
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「ちょっ、試合止めなくていいんですか!!?フェルダンの皆さん!!!」
「このままじゃあの青髪の子、死んじまいますよ!!」
特別観覧席にシルベスター王と共に座っていた特殊部隊の面々に、戸惑いと焦りの声が飛ぶ。
皆が見つめるその場所は最早、試合会場と言うより戦場と言うに相応しいありさまに変わり果てていた。
試合自体は滅多なことがない限り中止にはならない。
どちらかが倒れ動かなくなるまで続く。
唯一止める手段は、出場する騎士の国の王が【棄権】を申し出ることだけ。
しかし、たった今爆炎と業火に包まれたそこに居る筈のユウ、生存すら危うい彼を見ていながら、フェルダンは微塵もそんな気など起こしていなかった。
特殊部隊も国王も、ただじっと成り行きを見つめる。
それに我慢ならなくなったアントス王国の大臣らしき男が声を荒げた。
「何故そうも【棄権】を拒みなさるフェルダン!!そんなにも我らアントスの騎士に負けを認めることが恐いか!これまでの戦歴に傷をつけたくないのか!その為ならば若き兵士の命など捨ててくれると!!?見損なったぞ!」
男のいう事はもっともだった。
いくら強くとも、強さに固執するあまりに国の為に闘う兵士達の命をないがしろにするような国であれば、しょせんそれまでの王国となり得る。
これまで造り上げた名声も、誇りも、憧れも、散り散りになってしまうことだろう。
各国の王・騎士たちの視線が、彼らの答えを求め、フェルダンに集まる。
その時。
彼らの背後から声がした。
「――少々、勘違いをされているようだ」
「!!!」
会場が見えやすいようにひな壇状に作られた特別観覧席、その上の方から階段を下ってくる、黄金の瞳の男。
フェルダンの王族特有の金と茶が混ざった癖のある髪、その間から黒曜のイヤリングに光を反射させながらゆっくりとした足取りでこちらに向かってくるのは、フェルダン第二王子セレシェイラ・フェルダンだった。
「シェイラさんっ!」
最近会っていなかったルミは、久しぶりにその姿を目にし、ぽおっと桃色に頬を染めて喜ぶ。
「遅かったなシェイラ」
「すみません兄上、なんせ仕事が山積みでしたから。やっと終わって今来たところなんですよ」
シルベスターにそう言うと、シェイラは再び男に視線を向けた。