櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
「こ、これは…セレシェイラ殿下…」
突然現れた王子に若干戸惑いを見せる男、その彼に向かってシェイラは言う。
「突然出てきて差し出がましい事を言いますが、我らフェルダンはけして兵士の命をないがしろになどしておりません」
「しっしかし…ッ!」
「確かに、今この状況を見れば勘違いしてしまう気持ちも分かります。ですが我々が【棄権】を求めないのは、確信しているからです、彼がこの程度で死なぬことを」
信じているからです、彼の勝利を。
「…どんな状況下でも負けてはならない。それはけして国の名誉の為ではなく、自分の命を、自分の背に抱える人々の命を守る為。それだけの強さを持たぬ者には鼻から騎士になどならせるつもりはありません。何より、そこに居る彼らがそれを許さない。戦場を経験し、闘う事の危うさを誰より理解し、命の尊さを知る彼ら特殊部隊が。
今、ユウ・アルシェと言う人間がこの場所に立っているのであれば、それだけの素質を彼らに見込まれたという事…まあ見ていてやってください。まだまだ若い未熟な騎士ではありますが、彼が我らの代表、特殊部隊が見込んだフェルダンの騎士です」
そう簡単に折れませんよ。
まるでその言葉を待っていたかのように
シェイラ、シルベスター、特殊部隊の騎士
皆が見つめるその先の、業火に包まれた会場の中心で。
あり得ないものを見るかのように、笑みを忘れて愕然としたシュベルマーと
不敵な笑みを浮かべ、真っ青な魔力の炎をその身に宿したユウが立っていた。