櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
「ッ…!!あんさん…!どうして…っ」
「はあ、はあ、…よく聞け。シュベルマーとやら」
辛うじてフラフラと立っているユウ。
彼は鋭い目つきを向けて言う。
「あんたが何を知っているか…っ、どこまで俺のことを分かっているか知らないが…はあ、はあ!!俺のことならどうとでも言え!!あんたの言う通り、はあ、人を殺したことのないとはいえ、俺は罪人の息子に違いない!親父の罪が消えることはないし、俺も絶対に忘れることはない!!」
目に見えるほど濃い氷の魔力を纏ったユウの身体を中心に、地面が凍り始める。
それは辺りの業火をも飲み込み、溶けることなくただひたすらに凍結していって。
ユウの青い瞳が鋭い眼光を抱いて輝いた。
「だが!!フェルダンを…あの人たち侮辱することは許さない!監獄へ行くはずだった俺を何の迷いもなく受け入れてくれた、死の淵にいた俺を救い上げてくれた、この温かな優しさを持った国を!人を!!何も知らないお前が見下すことは絶対に許さない!!!」
だから、俺はこの試合、絶対に負ける訳にはいかないのだ。
勝利を収めることで初めて一つ彼らに恩返しができる。
フェルダンという名を守ることが出来る。
「あんたが【アントス】の名を背負っているように、俺だってこの試合で背負う物がある!それを守る為、俺は今闘っているんだ!」
「…!!」
「負けねぇよ、あんたにも、他の誰にも。どんな攻撃を浴びせられようと、絶対に膝はつかない。それが、俺の憧れるフェルダンの騎士!!俺が抱く『夢』だ!!!」
そう、彼が叫んだ瞬間。
どこからともなく、吹雪があたりを包んだ。
顔を防いで目を開けられないような猛吹雪。
炎は掻き消え、冷気が押し寄せる。
地面は瞬く間に氷結化し、腕や手足までもわずかに氷かけている。
シュベルマーは炎属性の魔力を使えるため自身を発熱させて身を守るが、それでも頬にかかる冷気はますます酷くなる。
(…っこれほどの魔力を今まで隠していた!?何てお人や!!)
なんとか薄らと目を開け、当の本人に視線を向ける。
吹雪の隙間から青い髪がちらりと見えた。
しかしその全貌にシュベルマーは目を見張る。
青い髪の毛先は白く染まり
見間違いでなければ、頭からぴょこんと猫のような耳が生えていて
腕や頬には斑模様が走り
お次は見間違えようもない、同じく斑模様の太く長い尻尾が伸びている
そう、それは
代々〈オーディン〉のトップを務めていたアルシェ一族の秘技
魔法学校での事件の時はまだまだ未熟で、ろくに使えこなせなかったあの魔法
乱れる雪の中、ユウの獣じみた鋭い眼がシュベルマーを捕らえる。
〈牙獣朗々〉
「…雪豹」
静かながらも確かなその声は、吹雪の中に響いた。