櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
どさりと、人が倒れる音がした。
一面の銀世界
その中に佇む半獣姿の青髪と、雪煙を立てながら凍った冷たい地面に倒れるシュベルマーの姿。
辺りには氷漬けの火柱やらイバラやら巨大な木の根が転がっていて。
すっかり様変わりした会場に興奮気味にアナウンスの声が飛んだ。
『…なんとなんと!!大逆転!!!!一時はアントス王国のシュベルマーに追い込まれたかのように見えたフェルダン王国のユウでしたが、大逆転で今、勝利を収めました!!!!第一部門【Tapfer】、勝者はフェルダン代表、ユウ・アルシェ!!!』
会場全体が一斉に湧いた。
ユウもそれを聞いて、(終わった…)と思わずほっと息をつく。
そして笑顔を浮かべてルミア達のいる観客席の方を見た。
その時
ピシッ
嫌な音がかすかに響いた。
それは試合会場と観客席、その間にある透明なガラスのような魔導壁が割れる音。
十本の支柱で支えられるように作られたそれは、会場に充満する魔力の影響を外に出さないためのもの。
今回の舞闘会に向け最高濃度の魔力を防げるよう作られたそれが壊れようとしているという事は、中の魔力が防げるレベルを大幅に超えたという事。
そんなものが一斉に解放されでもしたら、観客席に座る何千もの人々が死にかねない。
ピシッ…ピシピシッ…!
亀裂が広がる。
(あ…割れ…!!!)
割れる。
ユウがそう思った時にはすでに遅く、
それはユウの真上から砂のようになって崩れようとしていた。
「お前ら行けっ!!!」
野太い声が聞こえた。
次の瞬間、パンッと手を叩くような乾いた音が周囲から聞こえて、顔を青くさせていたユウは顔を上げる。
そこには
十本の支柱の上に立つ人の影
紅の部隊服に身を包んだ十人の騎士が両掌を打ち、内側に向かって魔力を放っていた。
それぞれが目を瞑り、声を合わせて何かを唱える。
『我ら守りの使者アイゼン・ジンノ・オーリング・アポロ・ネロ・イーリス・リュカ・ラウル・ウィズ・ルミア、その名・血・命をもって誓いとし、力を捧げてこの場に糸を編む
魔導壁再構築術式、【レナトゥス】』
すると支柱の上に立つ十人の身体から何種もの魔力が溢れだし、絡み合い、崩れかけていた魔導壁を修復していくではないか。
それだけではない。
特殊部隊の皆が放つ高純度で大量の魔力が合わさることで、先程よりもより強固に、頑丈に、さらに高い魔力値を防御できる魔導壁へと変わっていく。
そうして無事、魔導壁は崩れることなく、大惨事を回避することが出来たのだった。