櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
◇
「テメェエーー!!!なめてんのかクソガキ!!!!」
「すすすすいませんッしたアア!!!」
「謝って済めば警察はいらねぇんだよ!!!」
ゴンッ!!!
ジンノの怒鳴り声と共に鈍い拳骨の音が会場中に響いた。
最強の男の拳骨をまともに喰らったユウは、傷だらけの身体のどこよりも痛む頭のてっぺんを押さえてへたり込んだ。
「~~~~ッ!!!ってぇえ!!」
「黙れ!!魔導壁を壊すなとあれ程忠告したにも関わらず、案の定ぶっ壊しやがって!あわや大惨事になるところだったじゃねえか!!!クソガキ!!!」
「す、すいまっ…!」
「何が勝者だ!!!勝ったからって気抜けして魔力もろくにコントロールできない未熟モンが調子に乗るんじゃねぇよ!!!」
「…あ、…」
そうだ。
試合が始まる前に言われていたじゃないか。
大事なことは勝つ事じゃない。
お前が一人の騎士として必要なものを一つずつ再確認することだ。
基本的な魔法の扱いに始まり、守るべき者の為にけして諦めぬ姿勢に至るまですべてを。
そう、言われていたのに…
最後の最後で気が抜けて、というか興奮して、規定値以上の魔力を使ってた。
特殊部隊の面々やユウが体内に保有する魔力は底知れぬほど多い。世界に既存するどんなに魔導壁でも防げぬほど。
だから全力で魔力を放出することはせず、壊さないように最新の配慮をしながら魔力をコントロールしなければならない。
それは普段の訓練時から常々言われていたというのに。
ジンノが怒鳴るのも当然だ。
しゅん、と落ち込むユウだったが
怒りまくっていたサングラス男の顔に横から飛び蹴りがさく裂し、ジンノは突如どこかに飛んでいった。
「兄さん煩い!!ちょっと黙ってて!!!」
もちろん、そんなことが出来るのはルミアだけ。
女性使用に作り変えられた紅の部隊服、そこからすらりと伸びる長い脚で見事にジンノと蹴り飛ばしたルミアは、雪のように真っ白な髪振りまきプンスコ怒っている。
ちなみに、ここはまだ試合が行われていた会場のど真ん中。
天下の魔王様が吹っ飛ばされたことで、一部始終を見ていた観客や名だたる騎士たち口をぽかんと開けて驚愕の表情を浮かべていた。
「何しやがるルミアァ!!!」
「煩いって言ってるの!!勝ったんだからいいじゃない!魔導壁が壊れかけたのもそれだけユウの魔力が強かったってことでしょ!!第一何度も魔導壁をぶっ壊したことのあるジンノ兄さんが人の事言えるかぁあ!!!」
「んな生ぬるい事言ってっからガキが成長しねえんだ!強くしてぇなら人一倍厳しくしろ!!」
「兄さんは厳しすぎるの!ユウまだ十八なのよ!?初めての公式戦なんだからいいじゃないそのくらい!!!大バカ!!アホ兄貴!!」
「何だと!やんのかゴラァ!!!!」
兄妹喧嘩に拍車がかかり、間に挟まれていたユウは終始オロオロ。
「はいはい、落ち着きなバカ兄妹、二人ともだよ」
他の特殊部隊が間に入るもなかなか喧嘩を止めない二人だったがイーリスが仲裁に入りようやく落ち着いたのだった。
会場を出て医務室に行く途中、まだちょっと落ち込んでいたユウの頭にポンっと重みがかかる。
大きな手。
パッと顔を上げると、ジンノが
「…お疲れさん」
そう言って二度頭を撫でて離れていく。
「よく頑張ったって褒めてるんだよ。会場じゃああ言ってたけど、本音はこっち。口下手なんだあいつ」
言葉足らずのジンノを想いイーリスが横から補足してくれる。
他の特殊部隊の皆もにっこり笑いながら「お疲れ」と声をかけて頭を撫でていく。
目の前を歩く紅の騎士達の背中
思わず目を閉じてしまいそうなほどに輝く眩いそれに、ユウの夢の形に、ほんの少し近づけたようで。
胸の奥から温かな思いが泉のように溢れ出てきてたまらなくなって。
「やったね!ユウ」
ルミアに笑いかけられたユウは、目を細め白い歯をのぞかせて満面の笑みを浮かべる。
「うんっ!!!」
それは、年相応の元気いっぱいの笑顔だった。
◆
第一部門『Tapfer』勝者*ユウ・アルシェ
◆◇◆