櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
「…ちょ、あんさん大丈夫?顔真っ青やけど…」
「へ、平気…ハハ…」
ロマノの恐怖が抜けきらないユウを心配するシュベルマー。
そんな二人は簡易病棟を抜け、その足は舞闘会が行われている闘技場へと向く。
「もう次の試合始まってるんちゃう?はよ行きましょ」
「あ、うんっ!!」
第一部門『Tapfers』が終わると、次は第二部門『Duell』が始まる。
ここからは各国の現役トップクラスの騎士達同士による戦いになる。つまりは、ここからが舞闘会のメインになるのだ。
『Duell』では一対一のタイマン勝負が、二つのグループに分かれて行われる。
フェルダンからは、第一グループにアポロとネロ、第二グループにラウルとウィズが出場予定だったはず。
二人が闘技場の観覧席に辿り着く頃には、第一グループの試合は始まっていた。
「ああっ!もう始まってる!!」
「ほんまや…!次誰やねん、ここからじゃ分からんなぁ!!」
ちなみにここは騎士たち専用の観覧席。
すでに出場した騎士、これから出場する予定の騎士、顔ぶれはさまざまだ。
そんな中、先程の試合で十分注目を集めたユウとシュベルマーの突然の登場に、部屋がわずかにざわざわと揺れた。
しかし、そんなこと一切気にしない二人は会場に釘付け。
「あ、!!あんさん、次フェルダンのネロっちゅう人やで!!」
「ホント!?良かったぁ、ネロさんの試合には間に合ったんだ!」
そう言って興奮沸き立つ二人の耳に、気になる言葉が飛び込んできた。
「期待するだけ無駄無駄。お前ら知んねーの?ネロ・ファーナーがなんて呼ばれてるか」
「なー。正直、あの人だけは特殊部隊とは認めきれねーわ」
クスクス、クスクス
言葉と共に馬鹿にするような嘲笑うような笑い声が聞こえる。
ムッとしたユウは、会場から目線を背後の彼らに移し、口を開いた。
「…なんなんすか。ネロさんは特殊部隊の中でも優秀な騎士です、悪く言うのはやめて下さい」
「はっ、俺らは当然のこと言ってるだけだぜ。教えてやろうか、騎士業界じゃ有名さ」
フェルダン王国、最弱の騎士
ネロ・ファーナー
「は…?」
ユウは絶句する。
ネロさんが、最弱の騎士と呼ばれてる…?
そんなはずはない。
「馬鹿なことを言うな!!侮辱するのも大概にしろ!!」
「侮辱じゃねーよ。この舞闘会に参加する騎士は皆知ってる。あの人は騎士とは言えない。いくら特殊部隊でも、あの人だけは騎士だなんて認めねーよ」
「…言わせておけば…ッ!!」
ユウの中に怒りが湧く。
「お前だって見てればわかるさ、あの人はな、騎士として《最も恥ずべき事》をしたんだ」
「ネロさんが何やったっていうだ!!ジンノさんとも張り合う闇の魔法使いだぞ!それ以上言うなら俺だって我慢ならない…!」
怒りに導かれるように、観覧席にユウの魔力が僅かに漏れ出て、空間がピシピシと音を立てて凍りつき始める。
霜が降り、肌がピリピリと痛むような寒気がその場にいた全員を襲った。
先ほどの試合を見ていたからだろう。
ユウの強さはその魔力一つだけでも、十分を伝わってくる。
相手もまた、冷や汗を流しながらも臨戦態勢を取ろうとした。
まさに一触即発、そんな時、
「はいはぁーーい!そこまで!!」
一際明るい声が部屋に響いた。
冷気が、一瞬にして晴れ渡る。
そこに居たのは太陽のような笑みを浮かべた、アポロだった。