櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ




(ユウはんのあの強力な冷気を一瞬で…何ちゅう魔力。さすが、フェルダン特殊部隊一の炎の魔力の使い手、伊達やないな)



 瞬時に氷の魔力を消化させたアポロの力に、シュベルマーは言葉には出さないものの、心底驚愕する。


 同じ炎の魔力を扱う身として、その実力差を痛いほど身に染みて実感した。


 身震いがするほどに。


 当のアポロはニッコニコに笑いながら、ユウにチョップをかます。



「~~~ッッ!!!?な、何…!」


「そこまでにしなユウ。場外で乱闘したら優勝取り消しになるよ。……プラス、ジンノに首ちょんぱされっぞ」


「え゛…!!!」


「ホントだぞ。経験者は語る」


「経験したんですか…!」


「ああ。そうだな、あれは八年前のことだった…」



 などと経験談に花を咲かせる一方で、先ほどまで威勢よく騒ぎ立てていた騎士たちはアポロの登場に若干気まずそうにする。


 何せアポロは、フェルダンの王族の一人であるうえ、特殊部隊ではネロのパートナーとして有名。


 自分のパートナーが悪く言われて平気な人柄ではないはずだからである。


 明らかに変わった周りの雰囲気に、アポロは盛り上がっていた経験話を中断させ振り返る。



「…ところで、君たち、何の話をしてたのかな?」


「……ッ、それは…!」


「ま、聞かなくても大体察しはつくけどねー。ネロの事でしょ、最弱の騎士?だっけ。有名だねーあいつ」


 まるで何でもないような、気にせずと言いたげな顔で、アポロは言う。



「へ、平気なんですか!?ネロさんがそんな風に言われるの!!相棒ですよね」



 信じられないユウは声を荒げるが、そう問われた本人は、


「別に。当然デショ」


 とあっけらかんとしてるではないか。



「アポロさん!?」


「気にするほどの事でもないし、ましてユウが怒る必要なんて微塵もないじゃん。あいつはそれだけの事をしたんだよ。【最弱の騎士】だなんて大層な呼ばれ方してるけど、仕方ないよね」



 そう言うと、アポロはてくてくと会場をのぞける大きな窓の前に近づいた。


 それでようやく気づく。


 会場が何やらざわざわと騒がしくなっていた事に。



 ユウとシュベルマー、他の騎士たちもつられてのぞく。


 そこには、会場のど真ん中、『Duell』のステージとなる場所に立ったネロが、左手を頭上に掲げていた。



 その意味を知らないユウは怪訝な表情を浮かべるが、そのほかの騎士は息を呑む。


 アポロもまた、大きくため息を付く。



「はあ、まったく…」


「な、何ですか?ネロさんは一体…」


「ユウはん、知らへんの?」



 戸惑うユウに、シュベルマーは恐る恐る口を開く。



「…俺も聞いただけやけど、騎士業界、というよりこの舞闘会で、騎士が絶対に侵してはいけない禁忌が一つだけあるそうなんや、それは…」




「棄権、つまりは、闘いを放棄すること」



 そう代弁した、アポロに全視線が集中する。



「騎士道を重んじるこの舞闘会において最も恥ずべき行為、それが棄権、試合をする前に辞退すること。あいつは、ネロはね、過去三回出場した全試合で、棄権をした。闘わなかった…それが最弱の騎士と呼ばれる理由。まあ、言い訳効かないよ、これじゃあ」



全てを聞いたユウは、唇を噛む。


尊敬していた先輩騎士が、この公の舞台でこんな風に言われていたなんて。


信じ難い事実を目にし、心がざわざわと揺れた。



< 176 / 208 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop