櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
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場所は変わり、闘技場、ステージ。
例年通り、棄権の意思を示すため、左手を挙げていたネロは、酷く鬱々とした気持ちをしていた。
ネロが舞闘会に初めて出場したのは十一の頃。
フェルダンにおける歴代最年少での出場だった。
しかし、初めて出たその試合で、フェルダンにおいても極めて歴史的なその試合で、彼は初めて騎士道に背いた。
『棄権』
それが騎士として最も恥ずべき行為だと、そんな事は重々承知。
それでも尚、その選択をせざるを得なかった。
当時まだ特殊部隊の候補生に過ぎなかったネロは、自身の騎士人生がここで終わるのだと、そういう覚悟でその選択を取ったのに。
ネロは今、こうやって特殊部隊の一員として、この場にいる。
おまけに同じ舞台で棄権すること三度、そして今日、四度目のそれを犯そうとしている始末である。
(まったく、出場した所で棄権すると分かっているんだから、俺を出場リストに加えなきゃいいものを…アイゼン隊長も国王様もどうかしている。フェルダンの名を貶めるだけだというのに…)
自分がよそであれこれと言われる分にはいい。
覚悟はしていた。
だからそんな事はへでもない。
しかし、それでフェルダンが酷い言われようをするのなら、申し訳なく思う。
そんなことを考えながらも、自分の選択を変える意思はないと言う現実に、ネロは鬱々としていたのである。
早く棄権が受理されないかな、などと思いながら不意に前方に立つ男に目をやる。
不運にもネロの対戦相手となっていた岩の王国ロックハートの【剛腕】こと、ロッシュ・モーリス。
強面で、フェルダンの特殊部隊でも体格の大きいイーリスをひと回りかふた回りも上回る身体と、肉体美を振りまく男。
そんな男が
不意に目をやった瞬間、大粒の涙を目に浮かべ、ボロボロと音が立ちそうなほどの勢いで泣いていたのである。
ちなみに、腕を組み仁王立ちし、顔を般若のように恐ろしく歪めて、である。
(え゛!?!?!?)
ネロを始めとし、それに気づいた観客も盛大に引く。
それはそれは奇妙な、いやそれ以上にある意味恐ろしい光景だった。