櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
「何故だ…!何故戦わぬ!ネロ殿!!」
「は??」
号泣しながらロッシュはそう言う。
何事か分からないネロは顔をひきつらせ、冷や汗をかいた。
「ネロ殿!!!」
「はっはい!」
勢い押されて、思わず返事を返す。
「儂がどれだけこの機会を楽しみにしていた思う!?」
「…??」
世界七大国以外でこの舞闘会に出場できるのは僅かに3枠。
対して希望を出すのは100カ国近くにも上る。
その中で、各国の脅威となり得ないことを確認した上で抽選が行われるのだ。
ロックハート王国は今年初めての舞闘会となる。
興奮するのもわかるが、だったら寧ろネロがここで脱落すれば不戦勝となり、先にコマを進める。
喜ばしいじゃないか。
「儂が貴君に出会ったのは六年前!隣国による軍事侵略行為を阻止する為貴君がフェルダンから送られた時!!」
ああ、確かそんなこともあった。
フェルダンは交友関係を結んだ国が戦争に巻き込まれた際、軍事支援として特殊部隊を一人貸し出すことになっている。
そしてロックハート王国が窮地に追い込まれた時、フェルダンからやって来たのがネロだったのである。
「儂は感動した!あのようにまだ十代の若者が波のように押し寄せる軍勢を一人迎え撃ち果敢に挑む姿!!」
「はあ…」
「士気を失っていた我が軍を立て直し、勝利へと導いた貴君の手腕と圧倒的力!いつの日か拳を交えたいとそれだけを思い、ここまでようやく辿り着いたのだ!!それなのに!貴君は戦わぬという!それどころか騎士の恥だと、その道に背いた最弱の騎士だと呼ばれている!!」
「……」
「そんなはずはない!あの時、儂が見た貴君は誰よりも騎士だった!!何か訳あってのことだろう!そのぐらい理解する!!だが、ならば儂の願いはどうなる!?この思いはどうなる!?」
「ロッシュさん…」
「頼む!!ネロ殿!!この機を逃せば儂は二度とこの舞台には立てぬ!この老いぼれの最後の願い、聞き届けてくれ!!!儂と、今一度本気の拳を交えてくれまいか!!」
ロッシュの熱い思いが、闘技場内いっぱいに響き渡った。