櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ




次の対戦相手


砂の王国ヴェステ、特殊部隊隊長、ルト・アラビアータ・ヴェステ。


若くして砂漠の王国の軍トップに君臨する王族の一人だ。


ネロは呆れて、言う。



「貴方は…ルト様ですね。さっきの試合見ていなかったんですか?俺に魔法の類は通用しない。それに王族だからといって戦うとなれば容赦をするつもりは無い。魔法使いとしての将来は保証出来ないんですよ。
俺が棄権をすれば、貴方はトーナメントの先に進める。その先にいる騎士と戦ってください。それでいいでしょう」


「いやだ。戦ってもらわないと困る」



なんとまあ、頑固なこと。


はぁ、と頭を抱えるネロの背後で、黒いモヤがグラグラと揺れ動き、




次の瞬間



『戦おうぜぇーー!!イヤッハァァーー!!!』


と、キチガイのような声がネロの鼓膜を突き破らんばかりの勢いで飛び込んできた。



「煩いだまれ、戦わん」


『ええええェェェ!!!なんで!?チョー暇なんですけどおぉ!!!!』



ネロは顔色一つ変えず、平然とそれと会話する。


が、観客やアナウンス席、他の騎士達も何も聞こえていないようで、ピクリともざわつかない。


唯一、目の前のルトをのぞき。



「わわわ、もしかして今の…!!《トリシューラ》の声ですか!?」




そう。


これはネロの持つ神器、破壊の三叉槍《トリシューラ》の声。





神器とは。


元来、神が手にしていたとされる神聖な武器


故に神の力の片鱗を色濃く持つとされ、世界に数個しか確認されていないと言われるそれは、武器自ら主人となるべき人を選ぶと言う。


そしてこの神の器は、人知を超えた力も持つ。


その一つがこれ。


喋るのだ。


数年前、それは、このやかまし過ぎる声と破天荒な性格を一緒に連れてネロの前に現れた。




とまあ、そんな昔のことはとりあえず置いておこう。


現状、一番の問題は、どうしてその声が『ルト』に聞こえているのかということ。






「!?ルト様…今のが聞こえたんですか!!?」


信じられないと、ネロは愕然とする。


しかしルトはそれはそれは元気な声で、笑顔をこぼしながら、

「はい!!」

と言う。





「まさか…!」


ネロがなにかに感づくと同時に、背後の黒いモヤの中からまたしても騒がしい声が聞こえてくる。



『ハッハーー!まさか分かんなかったのかよ!!ダッセェ!!俺ァ分かったゼ!!すぐに!あのガキンチョが俺達と同類だってなァ!!』




その通り。


神器の声は同じ神器の使い手にしか聞こえないのだから。




「ルト・A・ヴェステ、豊水の神器《ガニメデス》の使い手です。此度の試合、神器による手合わせを願いでたい」



幼さの残るルトの、少し高めの声。


砂の王国らしく巻かれたターバンの隙間から、ブルーの目がすっと細められた。



< 185 / 208 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop