櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
───今より少し前、王族専用観覧席。
砂の王国スペースでは心做しか重たい空気が漂っていた。
国王アラクラン・ヴェステが、たんまりとたくわえた白髭を重たそうに動かしながら、フェルダンの方を向く。
「……シルベスター国王殿、少し良いか」
「?、はい」
突然呼び出され困惑しながらも、シルベスターは席を立つ。
少し離れた場所で交わされる、王同士の会話。
「次の試合、恐らく我が国のルトと貴国のネロ氏が戦うことになるであろう。ルトは若いが我が国の軍のトップ、そしてそれ以前に、ヴェステ王国の由緒ある王族、その一人だ」
「…はい」
「国民の支持も厚く、時期国王に名をあげるほどの実力を持つ」
「……失礼ですが、何を仰りたいのか、図りかねます」
いや、実際はなんとなく察しがつく。
国同士の駆け引きだ。
先程のネロの力を見、若き有望な騎士の将来を危ぶんだ王が、棄権をしてほしいとでも言いたいのだろう。
言われなくとも、彼はそうする。
そういう男だ。
だが国の駆け引きの一環で棄権をするのは話が違う。
了承は出来ない。
「…フェルダンの、うちの騎士に試合を放棄しろというつもりなのであれば、それは受け入れ難い申し出です。騎士個人の意思ならば私は如何な事もする所存でありますが、この場においては騎士はもちろん国も平等であるべき、対等であるべきです。我が国の騎士は相手が誰であろうと本気を尽くします。他者の意思は介入させません」
シルベスターには珍しく、固い口調と言葉で、アラクランに告げる。
あわや両国間の均衡が崩れるやもしれぬ、そんなやり取りが緊迫した空間を作り出していた。
「……シルベスター国王は何か、勘違いをされているようだ」
アラクランは静かにそう言った。
重厚なターバンで隠れた目元が僅かにのぞく。
緊張が走る空間で、次にアラクランが発する一言に、シルベスターは目を丸くした。