櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ




『──ルト様、これ以上はこの会場がもちません』


ガニメデスがそうルトに進言する頃には、魔導壁にヒビが入り、地面から観客席に水が染みでるほどまでに状況が悪化していた。


観客も騒ぎ始める。


水圧の力は強い。


回転がかかれば遠心力がプラスされる上に、この水は神器が作り出したものだ。


魔導壁もどこまで持つか予想がつかない。


最早、試合どころではなかった。


それでもルトは一切、その攻撃をやめようとはしない。


寧ろ、壊れゆく様が愉快で愉快でたまらないと言いたげで。



ケラケラ、ケラケラと笑っていたのだ。



『ルト様っ!』


「いーじゃん別に、他所の国がどうなろうと僕が知ったことじゃないもん。それに、お得意の『特殊部隊』様がどうにかするじゃん」



ルトは眼下に広がる渦潮の中にいるであろう男に向かって、皮肉めいたようにそう言った。







まるで、その声を聞いていたかのように



突如、ルトの真下の水だけが柱状に一瞬にして消え去る。


本当に、瞬きをする間にそれは『消えた』のだ。


そして次に、突風がルトを襲う。


ほんの一、二秒の出来事で、ルトは全くと言っていいほど反応できていなかった。


『ルト様…っ!!後ろ!!』


ガニメデスの声にハッとして、背後を確認した時には既に遅く。


振り返ったルトの腹部に、いつの間にそこにいたのだろうか、血に染めたような赤い部隊服の彼の、魔力による強化済みの右足が振り下ろされた。


「…ッッッ!!!!?」


呼吸が止まる。


激痛と共にルトの体は、水がなくなったお陰でようやく覗いた地面に勢いよく叩きつけられていた。




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