櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
『ルト様!』
「っっ〜〜〜うぅぅ!!」
地面に激突する寸前、ガニメデスが水のクッションを瞬時に作ったおかげで落下時の傷はないが、最初にいれられた蹴りはガードができなかった。
ルトはお腹を押さえ悶えながらうずくまる。
口からは血が滲む。
恐らくどこかの骨がイカれた。
(イタイ、イタイッ、こんなの知らない!!!)
経験したことの無い苦しみで悶絶しているルト。
そんな彼の前に、血の赤が、紅の布がチラつく。
地面に降り立つネロ。
黒い革手袋のその手には、三叉槍《トリシューラ》が握られていて。
「トリシューラ、水が邪魔だ。喰っていいぞ」
『ッシャーー!!!』
トリシューラの意気揚々とした奇声がが聞こえて来たかと思うと、ネロの背後にあった闇が、ドクンドクンと脈打つように、どんどん広がっていく。
すると同時に闇に触れた箇所から、それまで大量にあった水がどんどん消えていくではないか。
ネロを中心に四方八方に広がるそれは、ものの数秒でステージ全体を多い、渦潮の大きな傷跡だけを残し、水を跡形もなく消し去ってしまった。
「──ルト様、」
ネロは痛みに苦しむルトに話しかける。
「俺にも譲れない思いはある。だから貴方とは闘いたくなかった、他の誰とも。だが、国に被害を出そうと考えているのなら話は別だ。我が国の敵として、俺が排除する」
思わず身震いする。
それほどまでに、ネロの瞳は冷たく、身体を包む雰囲気はそれまでと比較にならない程に恐ろしかったからだ。
(…何、これ……身体が…ッ!!)
ガタガタと震える。
動かなきゃいけないのに動けない。
こんなこと、今まで一度も無かった。
知らない。
こんなのシラナイ。
ルトの頭は真っ白になっていった。