櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
『───お黙り下さい』
ステージ上に静かに声が響いた。
ガニメデスだった。
『確かに私は愚かです。こんなことで、この存在が消滅するなど…神器にあるまじき醜態。笑われて当然至極でございます』
ですが、
穏やかだがその中に確かな芯を持った、強い声が続く。
『私の主はルト様です。その選択を間違えたと、後悔したことなど一度もない』
『…ハハッ!死を望む主を誇るか!!それもいいさァ!だが、どんな綺麗事ぬかした所でもう一撃俺の攻撃を真っ向から受ければ間違いなくおまえさんは消滅する!!!それでもいいってのかァ!!』
『…ええ。それが主の望みならば。私は喜んでこの命を捧げましょう』
「そんなっ、待ってガニメデスッ!!」
涙ながらに痛む身体をおして、ルトは止めようと進みでる。
しかし、それを遮るように水のベールが彼を包む。
そして、再び柔らかな声色が。
『ルト様…運命とは逆らえぬ水の流れのようなものです。私がここに居ること、そして《破壊》の神器がここに居ることもまた運命。逆らえぬことなのでしょう』
《破壊》の神器
それは、神器の間でのみもう一つの名を持つ。
《裁き》の神器──堕ちた神器を裁く器だと。
ルト様
『貴方はまだ幼い。間違うこともあります。人は所詮、ただのヒト。全知全能の神ではないのだから。大丈夫!貴方は変われる。だって、あの時貴方は他の誰よりも望んだのです。人々の平和を、幸せを!』
美しきルトよ、心のままに。
そう最後に言葉を零したガニメデスは、水の手で優しくルトの頬をなで、その手を掴もうとする彼をの手からするりと抜けていった。