櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
この二人も特殊部隊のメンバー。
アポロはフェルダンの王族分家ヘリオダス家の現当主であり、光と炎の魔力を扱う魔法使い。
ネロは闇の魔力を扱う魔法使いであり、神器と呼ばれる特殊な武器を使用して戦う。
血族として王族分家のフィンステルニス家の血が流れているが、平民生まれの騎士だ。
「ネローーお酒とってええ」
「だめだよ、アポロは水飲みな」
「ええぇ!いーやぁー!!」
「文句言わない。リュカ、すいません水を貰えませんか?」
「ああ」
駄々をこねるアポロを押さえ込み、空になったグラスを、隅に座っていたリュカに向ける。
すると、瞬く間に触れてもいないグラスの中に水が湧きだし、なみなみとグラスいっぱいになった。
「ありがとうございます」
「別に気にするな」
リュカも特殊部隊の一人。
水の魔力を扱う盲目の騎士だ。独自の方法で魔力を感じ取る力を身につけたことで、騎士として戦えている。
視力がないために人一倍警戒心が強いリュカだが、その隣には優しい笑みを浮かべた体格の大きな男が。
「リュカ、ちゃんと食べてる?取り分けてやろっか」
「...ああ。すまんイーリス」
「いいよ、代わりに水ちょうだい」
そういうとイーリスはニコッと笑い、リュカの皿をすっととって食べ物を取り分ける。
彼もまた特殊部隊の騎士
中でも彼は特殊で、人狼でありながら珍しい岩石の魔力を持つ魔法使い。
この二人はある奇妙な縁で結ばれた仲だった。
食材を取り分けたイーリスはリュカの隣に腰を下ろす。
「はい。とって来たよ」
「ありがとう」
「ところでさ、そろそろルミを助けてやらなきゃしんどそうだ」
「そうなのか?」
アイゼンにつかまっているルミアを見て苦笑いのイーリス。
あまり感情を顔に出したがらないリュカも薄く笑う。
二人はルミアの義兄弟。
彼女の幼い頃に出会い、兄妹としてその数年間を過ごした、ルミアにとって親よりも家族に近い存在なのだ。
「(リュカっ、イーリスっ、助けてーー!)」
口パクで必死に助けを訴えるルミアに気が付き、二人は笑う。
「(笑ってないで助けて!!)」
「頑張れルミ」
「もうちょっと耐えろよ」
「(ちょっと二人ともっ!!)」
焦る彼女があまりに愛しくて
二人はやはり、幸せそうに笑っていた。