櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
一方
口付けるアポロの方にはある変化が起きていた。
ネロの腕を覆っていたはずの黒ずみが口伝いにアポロの方に侵食していたのだ。
いや、正確にはアポロの方に『移動』している。
ネロの腕の変色が良くなる代わりにアポロにそれが移っていっているのである。
それも、ネロの時とは比にならないスピードであの不気味な痣が全身に広がっていく。
『なんて事を…!!ネロ様に成り代わり死ぬつもりですか!?』
「ええっ!!?」
ガニメデスの言う通り、アポロの身体は瞬く間に変わり果て、ネロの痣がすべてなくなった頃には、服の隙間から除く全身にそれは行き渡っていた。
「アポロ様っ!!」
背後にいた医者たちも、流石に顔色変えて叫ぶ。
ネロは放心状態で話にならない。
全員がどうすべきか分からずにいると、突如、アポロの身体がボゥッと音を立てて発火した。
黒ずんだ身体は見る見る間に炭と化し、ハラハラと壊れていく。
「ああ…!!!そんなッ」
「ッアポロ様を、お助けせねば…!!」
ハッと我に返った者達が騒ぐなか、一際澄んだ声が会場全体を包んだ。
【うるさいなぁ、狼狽えるんじゃないよ】
それは、今現在炎に包まれ灰に成って行っている当のアポロの声で。
もはや人型とは言えない灰の塊に、皆の視線が向かう。
【俺を誰だと思ってんの?】
弱くなった炎の中で覗く、眩く輝く炎が一つ。
鼓動するように大きく揺れ動くそれは徐々に形を変え、灰の中から生まれ出る。
それはまるで、炎を纏った『死』を知らぬ鳥のように。
黒から蘇る、光を纏う赤は、美しい金髪を揺るがし、妖艶に笑う。
「《不死鳥》アポロ、《破壊卿》の隣立てる唯一の男だよ──」
死なぬ男は、赤茶の瞳を細めてそう言った。