櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
互いの魔力がぶつかり合い、双方吹き飛ばされる。
左腕が使えないネロは、右腕でなんとか身体を支えながら踏み止まり、再びアポロの方へ向かう。
一方アポロは、
「うぇ、アイツ全力で『常闇』使いやがった…!」
ネロの拳とぶつかりあった右足が、魔力の流れを止められていた。
しかも『それ』は、右足に留まることなく、全身に向けて広がっている。
侵食のスピードはそれほど速くないが、一分もすればアポロは魔力を一切使えなくなるだろう。
ここまで容赦なく、ネロが常闇の魔力を使用する相手はアポロを除いて他にいない。
なぜなら、【不死鳥】を謳う彼だけが、それに対抗し得る術を有しているからである。
「もう終いか!アポロ!」
戻ってきたネロが攻撃しつつ挑発するなか、アポロはニィっと楽しげに笑っていた。
「ンなわけあるかい!」
〈ブライト・フレイム〉フェニーチェ
その瞬間、アポロの身体が眩く輝く。
全身に見たことも無い光る模様が走り、その身体はキラキラと輝く赤い炎で包まれた。
その中で、アポロは常闇の魔力が侵食する自身の右足を根元から、躊躇いなく切り落とす。
思わず目を背けたくなる光景だが、瞬きをした次の時には、右足は切られる以前のように変わらずたしかにそこにあった。
口元に浮かぶは、嫌味なほど美しい笑み。
これこそが、アポロの真骨頂
二つ名の元となった技であり、
唯一、常闇の魔力に対抗できる術
常闇の魔力という名の『毒』が体の芯にまで及ぶ前に侵食部位を切り落とし、完璧に『再生』させる。
底無しの光の魔力と、それを成し得る医療技術を有するアポロだけが出来る、強引な力技。
絶対的な回復力を誇るそれは、炎の魔力による相乗効果を伴い、まるで
炎と光を纏った『死』をものともせぬ火の鳥
【不死鳥】のよう。
「まったく…いつ見てもイヤな術だ…」
眩いその姿に目を細めながら、心底嫌そうに、けれどその表情に楽しそうな笑顔を見せて、ネロはそう、呟いた。