櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ






すると、困っているルミアの元に助け舟が。





「隊長!もう酒はだめです!!」





アイゼンのジョッキを取り上げながらそう言うのはオーリング。



特殊部隊の副隊長で、王族分家プロテネス家の現当主。



明るく親しみやすいおおらかな性格だが、自身の持つ魔力の影響で、感情の起伏に応じ天候が変化する。



ひどい時には地震や洪水などの大災害まで起きてしまうほど、彼の魔力は自然界に影響を与えてしまうのだ。



逆に言えばそれだけ力の強い魔法使いだとも言える。



「オーリィ!酒返せ!!」



「だめです!!ったく、やっと禁酒禁煙できたと思ったのに、なんてざまですか!!」



「ちょっとくらいいだろっ」



「ちょっとぉ!!?アンタそう言って今までどれだけ飲んだと思ってるんです!!?あんたのせいで酒蔵はもう空ですよ!!」





オーリングがアイゼンの相手をしてるのをいいことに、ルミアは隙を見てそそくさと逃げ出す



 そして、そのまま大広間を抜け、外に面したバルコニーへと足を向けた。



 夜の涼やかな風が吹き抜ける王宮の広いバルコニー。



そこにまで、ガミガミとオーリングの怒鳴り声が聞こえる。



それに苦笑いを浮かべながらも「ふう」とようやく一息ついたルミアは、ふと、そこに自分以外の人間がいることに気付いた。



柔らかい風に長く真っ黒な髪が流れる。





ジンノだった。



バルコニーの隅で、手摺にもたれ掛かり、静かに夜空を見ながら酒を煽る。



その横顔は彫刻の様に美しく、りりしい。



彼は特殊部隊、副隊長。



 『魔王』と呼ばれる史上最強・最悪の騎士だ。





そして、ルミアの兄でもある。







 声をかけようかとためらうルミアに、ジンノが気づいた。



「あ...」



「ん?...ああ、ルミアか...お前も逃げてきたのか?」



 そう言ってジンノはふわりと笑った。



 とても愛おしそうに、慈しむ様に。







 朔夜の戦いの前。



 ジンノはルミアにある二つのことを明かした。





 一つは、二人に血の繋がりがない事。


 二つ目は、密かに抱いていた彼女への恋心を






 物心ついた頃から共に生きて来た、



 兄妹であることを疑わなかった



 互いに依存し、助け合い、唯一無二の存在として信じていたはずだったのに



 今でも、ルミアはあの時の事を思い出す。





 あの時の、苦しげなジンノの表情を。





 涙を流す兄の姿を



 

< 3 / 208 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop