櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
◆◇◆
フェルダン=ルシャ王都
王宮に併設された病棟の一つに、隔離病棟がある。
真っ白な病室に、全く不釣り合いな鉄格子。
その中にベットがあり、そこに彼は居た。
グロル・フィンステルニス
これまでに幾重もの犯罪を重ねてきた彼は、今や、もぬけの殻の様になってしまっている。
手枷、足枷をつけられてはいるものの、逃げたり抗う様子は全くない。
心がなくなってしまった、人形の様に、動かない。
朝から晩まで、ただただ、彼は窓の外を眺めた。
コンコン、
ドアが叩かれ、人が入ってくる。
真っ黒な髪の美しい女性。
グロルの娘、アネルマだ。
その後ろには特殊部隊のアポロとウィズがいる。
今日は一週間に一度の診察の日
未だ捕らわれの身であるアネルマも、この日だけは特殊部隊の監視付きで見舞いに訪れるのだ。
「お父様」
声をかけても反応はない。
別人の様になってしまった実の父を見て、アネルマは心を痛めた。
グロルが捕えられ、死にかけたことで、一つ分かったことがある。
彼には『呪い』がかけられていた。
酷く重い、残酷な『呪い』
それは、
実の両親を“殺す”ことで、かけられる『呪い』だった。
それが始まったのはいつだったのだろうか
今ではもう分からない。
ただ、きっかけは、たった一人の小さな嫉妬からだったのだと思う。
フィンステルニス一族は元々、王族に偶然生まれた闇の魔力を持つ魔法使いが造った小さな一族だった。
それゆえに王族間での力は最も弱く、扱いも非常に悪かった
闇の魔力こそ最強
なのに、どうして自分たちがこんな思いをしなければならないのだろう
全てはこの国を作った王家フェルダンのせいだ
いつか必ずフェルダンをこの国を変える
自分たちこそ、この国の王になるべき人間なのだから
そのたった一人の抱いた嫉妬と憎しみ
それを後世の人間が忘れてしまわぬよう、彼は自身に一つの呪いをかけた。
自分を殺した人間がその思想を受け継ぎ、それを成し得るまで、けして解けることのない呪いを。
そして自身の命の終わりを感じた時、実の息子の手によって命を絶った。
フィンステルニス一族はそうやって、脈々とたった一人の思想を受け継ぎ、生きてきたのだ。