櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
その真実を知ったアネルマは、何故だか妙に納得した。
先の教会での戦いの時、アネルマの放ったナイフを受けたグロルは、
『フィンスは因果な一族だ』と呟いて倒れた。
おそらくグロル自身、父親を手にかけていたのだろう。
同様に我が子の手によって死ぬ自身の運命を想い、そう呟いたのだ。
実の親を手にかけることでかけられる『呪い』
それは、実の子に殺されることでしか、解けることはない
何と残酷な『呪い』だろうか
今、グロルとアネルマの呪いは解けている。
彼らの治療をしたアポロと、ウィズを始めとした特殊部隊の面々が奮起した努力の賜物だった。
呪いが解かれた二人は本当の自分と対峙している。
過去の歪んだ思想にとらわれる前の本来の自分に。
アネルマは呪いの影響を受けていた期間が僅かであったため幸いだったが
グロルは少なくとも二十年以上
アネルマが物心ついたころにはもう、そうなっていたはずである。
呪いが解けて以来、
彼は今の様に、何を発するでもなく、ただただ窓の眺めている。
アネルマが何を話しかけても、何も答えない。
きっとアネルマには、グロルの閉ざされた心を溶かすことはできないだろう。
でも、溶かせるものなら溶かしてあげたい。
一番苦しんだのは間違いなくこの人なのだから。
「お父様、今日はね...お父様にお客様が来てるの...」
呼ぶわね。
そう言うと、アネルマは再び病室の外に向かう。
グロルは何も言わない。
けれど、
病室に新たに入ってきた人物が放つ、本当に極僅かな、普通の人なら絶対に気が付かない魔力の香りに、思わずぴくりと肩を揺らした。
目を見開き、自分の前に現れるその客人を息を呑んで見つめる。
「...なん、で......」
そこに居たのは、リラだった。