櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
「はああ...」
王宮の執務室に響く大きなため息。
空気が悪くなることこの上ないそれに、イライラを募らせる人物が一人。
「いい加減にしなさいよ!!これで十八回目!!どんだけ溜息こぼせば気が済むわけ!?それを延々と聞かされる私の身にもなってくれないかしら」
「何だよう...そんな風に言わなくてもいいじゃんか...」
「うっさい!仕事しろ!!」
落ち込むシェイラに喝を飛ばしているのアネルマ。
肩程まで伸びた真っ黒な髪をキレイにまとめ上げ、黒を基調とした侍従用の服を着ている。
王宮で働く侍従や補佐官たちが着る、専用のスーツのような服だ。
ドレスを着て過ごしている普段とは異なり、その華やかな印象とは真逆の姿。
彼女は今、シェイラの補佐官をしていた。
「大体何で私が貴方の補佐官をしなきゃいけない訳!?私、この前監獄から出所したばっかり!元婚約者!貴方を騙して殺そうとしたこともあるのよ!?忘れたの!!?」
「でもまあそりゃあ...人手も足りないし、しょうがないんじゃない?」
「しょうがなくない!!あんた達兄弟そろって頭おかしいんじゃないの!?」
この采配を下したのは国王のシルベスターだ。
本来なら、王族を殺そうとした大犯罪者を、王子の補佐官など側近として置くなど有り得ない。
普通ならばこの王国に残ることすら出来ないはずである。
そんな彼女が、こんなにも早く釈放され、国を追放されるでもなく王宮で働くことになったのは、ひとえにルミアのおかげと言えるだろう。
フィンス一族にかけられた『呪い』の存在を見つけたのはルミアとアポロの二人。
そしてその呪いを解くために、彼らは特殊部隊総動員で尽力したのだ。
そのおけげで二人の呪いは解け、結果的にグロルとアネルマの罪も軽くなった。