櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
ルミアの真っ白な髪が夜風に吹かれ、さらりとなびく。
「......ごめんな」
ジンノは悲しそうに、そう呟いた。
かつてのルミアはもうそこには居ない。
自分を兄と慕い、心を許し、屈託ない笑顔を見せてくれた彼女は。
自分を目にしても、声をかけるのに戸惑い
あの日以来『兄さん』とも言ってくれなくなった。
瞳の色も違う。
ルミアの中に眠る王族の血が目覚め、彼女の右目は黄金色になった。
左右異なる瞳の色。それは自分と、ルミアが本当の兄妹でない、確かな証。
「...俺は間違ったことをしたんだ、それを偽るつもりはない、だから...」
全部終わりにしよう
その言葉がジンノの頭の中で響く。
初めから決めていたことだった。
もし、ルミアが『死』という自身の運命から逃れ、生きることが出来たら、自分はルミアの前から姿を消そうと。
世界でたった一人の大切な人を、生きてほしいが為とは言え、傷つけて泣かせてしまったのだ。
もう兄としての立場も失った。
これ以上一緒に居れば、またいつか自分の心がボロを出す。それが何より恐ろしい。
だから、彼女の隣に居続けることはできない。
そう、決めていたのに。
『終わりにしよう』
その一言が出てこない。
まだ、彼女の傍に居たいと、彼女の隣を望んでしまう。
なんて傲慢なんだろうか。
(言えよ...たった一言だろうが...)
ジンノは唇を噛みしめた。
「あのっ!!」
夜の静寂を破るように、ルミアが声を上げる。
はっとしてジンノは顔を上げた。
目の前のルミアはその綺麗な顔を歪ませ、深刻そうな表情で自分を見つめていた。
「あの...っ...アイルドールでの事...ずっと考えてました。でも、やっぱり私にとって、貴方は『兄』なんです」
「...うん」
「血は、繋がってないのかもしれない。でも、一緒に居た事実は変わらない」
強大な力を持って生まれたために、ずっと孤独だった
バケモノ、悪魔とののしられ
親からも見放されても
ジンノだけは必ず傍に居てくれた。
一緒にご飯を食べ、一緒に寝て、一緒に学校に通って、騎士になるための厳しい鍛錬も一緒に乗り越えた。
「一緒にいた時間の分だけ、私たちは兄妹の絆を紡いできたんだと思う。それ以上でもそれ以下でもない。だから...好きっていう気持ちには答えられません」