櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
「で、結局なんなの?何があったのあなた達」
手にした紅茶を机に置き、アネルマは本題に戻る。
しかし、当のシェイラはちびちびと紅茶を飲み続けるだけ。
まったく、話を聞いてほしいのか、ほしくないのか
一体どっちなのだろうか。
面倒くさいったらありゃしない。
「はあ、...避けられてたのは解決したんでしょ?仕事を抜け出して会ってるもんね」
ぎくぅっ!!
そんな効果音がピッタリなほど、シェイラは目に見えて驚く。
「んなっ!?」
「...バレてないとでも思ったの?」
「そんな...エンマを身代わりにおいたのに...」
エンマとは王宮に住み着いている小さな黒人形のような生き物だ。
ルミアやジンノの家であるプリ―ストン――オルクスの一族から生まれ、同じように王家に仕えている。
悪魔に似たような存在で、決まった姿を持たない。
自身の姿を様々な形に変えることが出来るエンマ。
モノや動物、そしてフェニックスなど神獣まで様々に。
勿論ヒトに化けるなど容易いわけで。
シェイラはルミアに会いに行く際、エンマに自分に化けさせ、抜け出していたのだ。
絶対ばれるはずはなかったのに。
「なんで分かった!?」
「簡単よ。それまでまったく仕事が捗ってなかったのに、突然急激に捗り出すんだもの。どうやって身代わり作ってんのか知らないけど、身代わりの方の貴方が私としては有り難いわね」
チョー仕事できたわよ、貴方の身代わりさん。
馬鹿にしたように、そう言われたシェイラは悔しそうに唸った。
「...た、たしかに、黙って抜け出してた。それは謝る、ごめん...」
「別に、仕事してくれてたから怒ってない。それより、あの子からはもう避けられてはないんでしょ」
「...うん」
キスをして告白をして以来約二週間口をきいてもらえなかったが、徐々にその警戒網も解きほぐされ、今では以前の様に二人で会えるようになった。
毎日とはいかないが、三日に一度、最低でも一週間に一度は会っている。
最近では一昨日。
以前同様、特別話が盛り上がるわけではないが、お互いの近況について伝え合い、共に時間を過ごす。
何も話題がない日だってあるが、隣にルミアがいて笑ってくれる。
一緒に居れる、それだけでいい。
避けられてはいない。
むしろこんな忙しい日々の中で、会えている方だ。
「じゃあ、なんで貴方はため息を我慢できないくらい、目に見えてへこんでるわけ?」
そう、問題はそこ。
シェイラは覚悟を決める。
「...実は...」
「実は?」
「...実は、ルミに、俺の知らない男の影があるみたいなんだ...」