櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ
魔法学校の裏手。
普段なら絶対に人が寄り付かない場所。
シェイラとルミの二人だけの約束の場所なのに。
(誰だよ、誰つれこんで笑顔振りまいてんだよ...!)
と、シェイラの理不尽なイライラは募るばかり。
しばらくするとルミがバイバイと手を振った。
ようやく話していた相手と分かれたルミはちらりとシェイラの方を向き、こちらに向かってかけてくる。
シェイラもほっと息をついてルミの受け入れ態勢を作っていた時
ガシっ
「えっ...」
こちらを向いていたルミの片手を、先ほど別れたはずの人物ががっちり掴んでいた。
学生服を着た、この国では珍しい青い髪の男。
男。
男だ。
シェイラは頭が真っ白になる。
男はルミの手を掴んだまま、真剣な顔で何かを言った後、ルミをしかと抱きしめた。
その瞬間、ブチ切れた。
「アイツっ...!!!」
彼の顔が怒りあまり赤く染まり、眉間に深くしわが刻まれた。
今すぐ二人を引きはがそうと、彼らの元へと駆け寄ろうとしたシェイラ
その手を白い女の子がギュッと掴む。
「離せ...!!」
怒りあまりそれを振りほどこうとしたシェイラだが女の子は絶対に離さない。
そしてふるふると顔を横にふった。
大きな瞳が、『行くな』と訴えかける。
この女の子はルミアの魔法で生まれた分身
つまりは、この子の意志はルミアの意志であるという事。
「......っ!!」
ルミアが来るなと言っているのだ。
もう、たまらなく悲しかった。
こんなの振られたのも一緒だ。
好きなのに。
本気で、好きなのに。
(...なんだよ......)
好きな女性の、抱きしめられている瞬間を黙ってみていろと言っているようなものだ。
そんなの耐えられるわけでもなく。
シェイラは女の子の手をすっと離し、静かに何も言わずに立ち去る。
胸が痛くて痛くて、締め付けられたように苦しくて。
(失恋、かなあ......)
サクラ並木の下、涙がホロリと零れた。