櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ













結局その日以来、ルミアとは会っていない。



というか、執務室にこもって人との接触を断絶している。



あの学生服の男が誰で、あの時何を話していたのか気にならない訳では無いが、それよりも今は会いたくない思いの方が勝ってしまった。



どんな顔をして会えばいいのかわからない。



ちょうど、仕事は唸る程ある。



嫌なことは仕事に明け暮れることで忘れてしまおう。



そう考えた訳なのだが、結局のところ、シェイラはやっぱりルミアが大好きなのだ。



三日に一度、少なくても週一で会うほど惚れていて



彼女を中心に彼の人生はあると言っても過言ではないくらい必要不可欠な人だったわけで。



到底忘れることなどできず、仕事は手付かず、溜息が止まらないという今の現状に陥ったわけなのである。






全ての経緯を聞いたアネルマは、目の前の王子のあまりの不甲斐なさに愕然としていた。



「......信じらんない。あんた、その状況で何も言わずに大人しく帰っきたわけ」



「そ、そりゃあ『オレの女に近づくな』ぐらいいってやりたかったよ。でも......実際俺の女でもないし、ルミの式神に止められたし......もし、ルミと付き合ってるなら...俺の出る幕じゃないし......」



「いくじなし」



「......」



「だいたい、あんた、その男が一方的にルミアに迫ってるって可能性は考えなかったわけ?二人がその場所であっていたのは、ルミアが遅れたあんたのことを健気に待ってくれてたからかもしれないじゃない。そこにその男が現れたから、そこで話すしかなかっただけで、抱きつかれたのもあの子からじゃないわけでしょ?男の方から一方的になんでしょ??」



「あ、...」



「あの子はあんたが惚れるぐらいだから優しすぎるくらい、優しい。だったら突然言い寄ってきた相手も蔑ろにできないって思わない?」



 アネルマのもっともな台詞にシェイラは、どんどん落ち込んでいく。



 そんな彼に追い打ちをかけるように、アネルマは続けた。



「本当に好きなら、なにがなんでも彼女を引っ張ってきなさいよ!強引にでも奪っちゃいなさいよ!どうしてそこで何も言わずにのこのこ帰ってくるかなあ。もし仮に彼女とその男が恋仲であっても、いろいろやり方はあったでしょうよ、貴方は王子であの子は騎士なんだから。自分の純真な部下を守るためだとか」



 そこまで黙って聞いていたシェイラは、ふと顔を上げる。



「それは違うよ、アネルマ」



「...なに?」



「俺は、ルミを自分の部下なんて思ったことは一度もない」



 たしかに彼女は騎士で、自分は王子



 それは変えようのない事実だ。



 ルミア自身、シェイラを主と崇め、身を挺して何度も守ってくれた。



 だけど、シェイラはそう思ったことなど一度もない。



「彼女は、俺にとって初めてできた友達で、最初の理解者で...初めて恋した人だ。彼女や他の誰が俺達の事をどんな風にとらえてるか知らないけど、俺は...俺だけは、絶対にそれを間違えるわけにはいかない」



 ルミアと俺は、対等なんだ。



 部下じゃない。



 


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