櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ











「――では、失礼いたします」



執務室を後にしたアネルマはカツカツとヒールを軽快に鳴らして、王宮内を闊歩する。



まとめた髪をサラリと解き、豪快にかきあげた。





 王宮の中で忙しなく動き回る人間たちの、アネルマを見る目は冷たい。



 それはそうだろう。



 何せ、大犯罪者の娘なのだから。



 自身も王子を騙し殺しかけた前科がある。



 なのに、平然として王子の補佐官についているのだから、当然の反応と言える。



(まあ、もう慣れたけど)



 本来さばさばとした性格であるアネルマは、そんな視線の中をもろともせず、その美しく凛とした雰囲気を惜しげもなく振りまきながら歩いていった。







 補佐官には王宮内に小さいながらも自室を持っている。



 一日のほとんどを王宮で過ごす主に合わせ行動をする為、短時間の睡眠や着替え風呂など簡単に済ませる部屋が必要なのだ。



 自身の部屋に向かった彼女は、到着すると服を着替え始める。



 王宮内の侍従服は外に出れば少々目立ちすぎる。



 だから、自身の私服に着替えるのだ。



 以前はゴージャスなドレスばかりを着ていたが、それはアネルマの趣味ではなく、シェイラの婚約者として相応しい身なりにしろとグロルから指示され着せられたもの。



 繕う必要がなくなった今、彼女が着る服は、やはり黒を基調とした物ではあるが、ずっとシンプルで尚且つ品のあるパンツスタイル。



 高いピンヒールに履き替え、髪をもう一度結びなおす。



 アネルマの美しさやカッコよさが一層引き立っていた。
 





 素早くそれらの作業を終えた彼女は、立ち上がる。



「よし、行くか」



 一歩踏み出した彼女は、何やら生き生きとしていた。






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